2020.07.15 | コラム

新型コロナウィルスの感染拡大により、いま観光業は深刻な影響を受けています。

 政府は『Go Toキャンペーン』により、観光需要を喚起しようとしていますが、東京など大都市圏では、感染者数が再び増加傾向にある中、まだまだ旅行をためらう消費者も多いでしょう。また、旅行に出かけるにしても、旅行先の選び方や旅行のスタイルは、間違いなく、コロナ前とは大きく変わることでしょう。

 このような中、先日、『全国体験観光オンラインシンポジウム』 というセミナーに参加し、アレックス・カーさんの講演を聴く機会がありました。ご存知の方も多いと思いますが、アレックス・カーさんは、1952年にアメリカで生まれ、イェール大学などで日本や中国について学ばれた東洋文化の研究者です。



(一般社団法人そらの郷: にし阿波ウェブサイトより)

 徳島県祖谷の古民家に住み、まち作りのコンサルティングなどを手がける傍ら、国内外に向けて日本の文化や観光に関する情報を発信するほか、近年はセミナーなどで「オーバーツーリズム」「ゼロドルツーリズム」など、日本の観光政策についても問題提起をされています。

 先日のセミナーでは『新しい旅の哲学』というテーマで講演をされましたが、非常に興味深いお話でしたので、以下、特に印象に残った点を中心に、私のメモを共有したいと思います。

 1.観光業にも求められるUXの視点

緊急事態宣言が解除された後、全国の美術館・博物館なども、徐々に来場者の受入れを再開しましたが、館内の混雑を回避するため、ネットによる事前予約を取り入れるところも増えています。

 これまで、人気のある観光施設では、炎天下や荒天の中でも、来場者は長時間、行列をして待つことを強いられており、それが当たり前だと考えられてきました。ところが、コロナ問題をきっかけに、図らずも、運営側がその気になれば、事前予約制度によって来場者を待たせないための仕組が導入できるということが分かってしまった訳です。

 裏を返せば、多くの観光地では、観光地側・運営側の都合で、観光客の利便性がないがしろにされてきた訳ですが、果たして、今後、そのような観光地が、多くの観光客を惹きつけることはできるのでしょうか?

 確かに、事前予約制度は、感染拡大防止という観点から有用な施策である訳ですが、たとえコロナ問題が収束したとしても、事前予約制度を継続することで、人気の観光施設でも、来場者が長時間の行列をせず、快適に楽しめるという世界が、日本の観光における「ニューノーマル」になることを期待したいところです。

 2.市場原理主義が招いたゼロドルツーリズム

 新型コロナウィルスの感染が広がる直前までは、多くの観光地においてオーバーツーリズム、つまり観光客が多すぎることによる弊害が問題となっていました。しかし、オーバーツーリズムは、市場原理主義にとらわれた観光地自身が招いた問題という見方もできます。

 多くの観光地では「どれだけ観光客を呼べるか」という数値目標を立てた結果、大型バスでツアーを呼び込む、そのためには、バスが停められる駐車場を作る、バスの利用者のためにトイレや自動販売機も設置する、といったことが行われていきます。

 果たして、観光地には、大型バスで大量の観光客がやってくる訳ですが、彼らの多くは、観光地をパッとみて、サッと帰ってしまうため、観光地には余りお金も落とさない「ゼロドルツーリズム」に陥ることになります。

 海外でも、大型クルーズ船が寄港するベネチアでは、多くの旅行客がやってくるものの、市内では宿泊も食事もしないため、受入コストばかりかかり、地元にはお金が落ちないという問題に直面し、今後は、日帰り観光客から「訪問税」を取ることを決めました。



(SankeiBizサイトより)

 京都でも、コロナ前には、外国人観光客が増えすぎた結果、日本人観光客が減少してしまうという問題が起きていましたが、今後は「観光促進」から「観光マネジメント」にシフトすることで、見かけ上の来訪者が減っても、結果的には、訪れた観光客の満足度が高まり、地域にもきちんとお金が落ちるような仕組が作れるのではないでしょうか。

 3.旅行者にも求められるSDGs的な哲学

 今後、観光地が、サステナブルな成長を維持するためには、観光客側にも、新たな考え方が求められることになりそうです。

 地球環境の保全といった観点から、私たちは日々の消費行動の中で「カーボンフットプリント」や「フードマイレージ」を意識することが求められるようになっています。これと同じように、人気・話題の観光地に行ってみたいという気持ちに駆られた時も、自分がそこを訪れることで、観光地に与える負荷を考える、といったことも大切になるでしょう。反対に、自分が行くことで、観光振興に資する場所を選ぶ、といったこと判断があっても良いでしょう。

 「インスタ映え」といった言葉が広まって久しいですが、素敵な景色や風景を見つけても、SNSではあえて共有せず、自分の心だけに焼き付ける、いった配慮や分別も、これからの旅行者が身につけておくべきマナーになるのかもしれません。

 新型コロナウィルスによる観光業への影響が、いつ軽減・収束するのか、まだまだ見通しを立てることは難しい状況です。だからこそ、短期的な利益ばかりを追うのではなく、観光客の視点で、観光政策を適切にマネージすることが、観光客の満足度を高め、結果的に、観光地の中長期的な発展につながっていくのではないか、というアレックス・カーさんの提言は、観光マーケティングに携わる私にとっても、大変、参考になるお話でした。

 そして、最後にお知らせです。

 弊社でも、来たる7/27(月)の13:30から、データドリブンな観光マーケティングをテーマにしたオンラインセミナーを開催します。

 本セミナーでは、吉野ビジターズビューロー事務所長 山川貢太氏をゲストにお招きし、先般公開された多言語観光情報サイト『よしのーと!』の制作を決めた背景や、同社の観光マーケティング戦略についてお話を頂きます。

 あわせて、サイト来訪者の国・言語別に、来訪者の興味・関心に合わせたコンテンツを自動的に表示させることを目的に、弊社が独自に開発したマーケティング オートメーションツール『スマートUX』の機能や特長についてもご紹介します。さらに、同ツールの開発を主導した弊社CTO・佐藤からは、観光ビッグデータの 解析・活用に関する最新事例についてもお話いたしますので、ぜひ、ご参加下さい。

 【セミナー概要】

「コロナ時代を勝ち抜くための観光マーケティング戦略とは」〜奈良県吉野町が挑むデータドリブンな観光マーケティング〜

日時:2020年7月27日(月)13:30〜14:30 

参加費:無料(オンラインセミナー)

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