2015.03.12 | イベント
消費者が、さまざまなデバイス・チャネルを通じて、商品やサービスに関する情報を探すことが当たり前になっている今日、業種や業態にかかわらず、ソーシャルメディア上に適切なプレゼンスを持っておくことが重要になっています。

こうした流れを受け、近年、SESにおいてもソーシャルメディア関連のセッションは「定番」となっています。

今年のSESロンドンでは、広告代理店JWTでソーシャルメディア戦略を担当するToby Chishick氏から、キットカットの取組を例に、大手のグローバルブランドが、ソーシャルメディアと、どのように関わっているかが紹介されました。

キットカットが大切にしているのは、”Embracing Internet Culture”、つまりブランド側から何かを押しつけるトップダウンのアプローチではなく、「ネット民」の好みや意見を尊重したボトムアップのアプローチにあると言います。

たとえばキットカットを使った面白い写真やコンテンツをネットユーザに自由に作らせて、さらに、ブランド自身もその拡散に手を貸すことで、自らのブランドを中心にネット上での対話が広がるような環境を作り、結果的にブランドの認知を高めたり、ファンを増やしたりすることを企図しています。

ネット民が面白いと思うならこんな写真も全然OK

キットカットにおいて、こうした取組が可能なのは、単に企画力が優れているといったことだけでなく、キャンペーンの内容や方向性について、キットカットはそれぞれの国や市場に、かなりの裁量権・決定権を与えていることが大きい、とChishick氏は強調します。

確かに日本でも、「きっと勝つと」という九州弁のゴロ合わせから始まったとされる、受験生にキットカットを送るという習慣を、ブランドが支援する形でキャンペーンとして展開するなど、日本特有の動きが見られますね。

また、キットカットのTwitterアカウントでは、昨年のスーパーボウルで、停電時の当意即妙な対応が話題となったオレオのTwitterアカウントと、三目並べ(いわゆる「○×ゲーム」)で対決するといったことも行っています。他ブランドとのコラボも厭わないという、こうしたお茶目な姿勢もまた、「ネット民」の心理を巧みについたものと言えそうです。

他のブランドとネット上で対決

一方で、「どこまでお茶目に振る舞うか」の線引きは難しく、その判断を誤ると、ネット民の不興を買い、ブランドイメージを毀損してしまうリスクもあります。

たとえば、2013年の9月11日に、米国の通信会社AT&T社が「同時多発テロを忘れない」と書いたツイートにスマートフォンの写真を掲載したことで、ネット民からは、「911を宣伝に利用するのか」といったバッシングを浴び、謝罪の上、Twitterやフェイスブックへの書き込みを削除する結果となりました。

どこまでお茶目に振る舞うかの判断は難しい

最後にChishick氏は、ソーシャルメディア上でブランドがプレゼンスを高めるためには、共感を呼ぶ良質なコンテンツや、イノベイティブな取組であることは非常に重要だが、一方でキャンペーンを企画・実施する担当者・チームには、「ネット民」の心理や行動特性について、充分な理解が求められると結んで、講演を終えました。

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2015.03.05 | イベント
SES長年の「伝統」にのっとり、今回のSESロンドンでも、大所高所からの戦略論だけでなく、日々、現場で様々なタスクに向き合うデジタルマーケティング担当者にヒントや気づきを与えてくれる、実務的なセッションが用意されていました。

その中の一つが、『Using Analytics to Make Sense of Your Audience Data(来訪者データから意味ある示唆を得るためのアクセス解析術)』と題されたセッション。

登壇した2名のスピーカーは、いずれも英国企業のいわゆる「ウェブ担当者」で、彼らが、日々、「サイトの価値」を高めるための施策を考えたり、あるいは、経営層に対して、「サイトの価値」を正しく理解してもらったりするために、データとどのように向き合っているのか、その取組が紹介されました。

特に面白かったのが、uswitch.comという比較サイトを運営するLukasz Zelezny氏の話。見た目は、こんな感じの人ですが、話を始めると、日々、データと丁寧に向き合っている様子がうかがえました。


その風貌とは裏腹に(?)、繊細な仕事ぶりが垣間見えたZelezny氏

彼は自社のアクセス解析データを前に、まずは、前月のセッション数を見せて、「ここからどんなストーリーが語れますか?おそらく、何も語れませんね?」と問いかけます。次に、前年同月比でセッション数が減少しているというグラフを見せて、「これで少し、何かストーリーは作れそうな感じがしますよね?」と続けます。

さらに、セッション数の減少に、直帰率の減少というグラフを重ね合わせることで、「直帰率の減少というデータが加わったことで、『(広告運用の見直しや流入キーワードの変化などにより)来訪者数は減ったけれども、よりターゲットにあった来訪者を獲得できたことで、実質的な閲覧者はむしろ増えた。』というストーリーが描けるようになるはず。」と。

一つデータが加わるごとに、ストーリーが深まっていく

最後にZelezny氏は、「目の前のデータを使って、チャートを量産したくなる誘惑に負けてはいけない。そのデータを加えることで、あなたが伝えたいストーリーに深みが増すかを吟味せよ。」という言葉でプレゼンを締めくくりました。

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2015.02.26 | イベント
今週からは、2月10日と11日の2日間に渡って開催されたSESロンドンで印象に残ったセッションの様子を、順次レポートしていきたいと思います。

初日の基調講演に続いて行われたセッションでは、英国のウェザーチャンネル社が、天候データを広告配信の最適化に活用した事例が紹介されました。

Weather FXの開発経緯について話すRoss Webster氏

明日の天気を予測しようという人類の試みの歴史は古く、紀元前のバビロニア時代には、既に天気予報が存在していたことが分かっているそうです。さらに、商売人たちは、天候と商品の売れ行きとの関係を分析することで、天気予報をもとに、売れ筋の商品も予測しようと務めてきました。

それでも、これまでは、天気予報を見て、売上が増えそうだと期待される商品を多めに仕入れたり、作ったりして、お客を待つことしかできませんでした。

そこで、ウェザーチャンネルが作りあげたのがWeather FXというシステムでした。これにより天気予報のデータから、売上が伸びそうだと予測される商品の広告を配信、できれば、さらに売上を伸ばせるのではないかと考えた訳です。

Weather FXを使って広告を出すことで、たとえば、ロンドンで雪の天気予報が出た時、食品メーカのHEINZでは、体が温まるスープの広告を、一方、タイヤメーカのMichelinでは、冬用タイヤの広告を配信する、といったことが可能になります。これによって、広告のクリック率は4倍も上昇したそうです。

また、パンテーンが実施した、”Beautiful Hair ? whatever the weather”(どんな天気でも美しい髪を)というキャンペーンでは、ウェザーチャンネルのスマートフォンアプリで、ユーザーの所在地データにあわせたピンポイントの天気予報とあわせて、お薦めのヘアケア商品の広告を配信するという試みを実施しました。

パンテーンのキャンペーン実施例

パンテーン社は、地域ごとの天気に合わせたお薦め商品の広告を配信することで、売上が28%伸びたとしており、効果の高いマーケティングキャンペーンに対して与えられるエフィー賞の受賞にもつながりました。

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2015.02.12 | イベント
ニューヨークやサンフランシスコでは「ClickZ」という名称にリブランドされましたが、ロンドンでは、従来の名称のまま開催されたSESロンドン。今年も、視察ツアーにご参加頂いた媒体社・エージェンシー・ブランドなど、様々な立場の方々と一緒に参加しています。


会期は今年から2日に短縮されましたが、サーチ・ディスプレイ・ソーシャルなど、様々なチャネルを俯瞰して、マーケティングの全体戦略を考えるという視点から、幅広いテーマのセッションが組まれている点では、昨年参加したClickZ Bangkokと似た構成になっています。

一方で、リスティング広告の最適化やSEO戦略について、かなり実務的・テクニカルなテーマを扱うセッションも、所々に配されており、この辺が”SES”という名称を残した理由なのかもしれません。

ちなみに、SESロンドンに参加するには、約20万円の費用がかかりますが、初日のキーノートセッションから、会場はほぼ満員の盛況でした。


初日の基調講演に登壇したのは、フランスの総合電機メーカーSchneider Electric社でデジタルマーケティング戦略を統括するShawn Burns氏。


講演のテーマは「IoTが変えるコマースの世界」というものでしたが、特に印象的だったのは「製品」よりも「サービス」を磨けという言葉でした。

これまでメーカーは、より良い製品の開発や製造に血道をあげてきましたが、今日、多くの「製品」は、ネットワークで結ばれた「システム」の中で機能する時代になり、今後、消費者は誰かが創り上げた秀逸な「システム」を使って、様々な目的・タスクを達成できるようになる可能性が高くなると考えられます。

そうなると、そのシステムの中に組み込まれていない製品は、どんなに良い製品でもスキップされて使われなくなるというリスクに直面することになります。例えば、ITを駆使したエネルギー管理の「システム」構築に長けた新興企業が、突如、GEのような伝統企業のライバルとなって表れるかもしれない。

Burns氏の講演は、IoT時代に生きるメーカーの危機感や、新たなビジネスの可能性にも言及した、非常に興味深い話でした。

本ブログでは、この後も引き続き、SESロンドンで見聞きした最新情報などをご紹介していきますので、どうぞお楽しみに。

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2015.02.11 | イベント
今回は、前回に続き、昨年10月に参加したClickZ Bangkokのセッションをご紹介します。

検索エンジンマーケティングに関する専門イベントSearch Engine Strategiesとして始まったイベントが、SES~ClickZへと、発展的に成長していった背景には、カンファレンスで扱うテーマが、検索からディスプレイやソーシャルメディアにも広がっていったという事情があります。それに伴い、戦略立案や効果検証に関するセッションにおいても、オンライン~オフラインまでを俯瞰した、よりメディアニュートラルな視点からの議論が年々増えています。

先般のClickZ Live Bangkokにおいても、こうした流れを象徴するように、たとえば、データドリブンマーケティングに関するセッションでは、部門や担当・組織の壁を超えた統合的な視野・視点が求められるといった話が行われていました。

また、アトリビューションに関するセッションでは、SAPがタグマネージメントの専任担当者を採用し、各メディアの役割を踏まえたアトリビューションモデルの策定について、試行錯誤を繰り返しながら理想のモデルを模索している、といった興味深い事例も紹介されました。

こうした流れの中、非常に興味深かったセッションの1つが、ニューヨークを本拠に、世界各国で広告ビジネスを展開する広告代理店JWTのアジア地区CEOであるTom Doctorof氏の”Twitter is not strategy”というセッションでした。

広告メッセージの変化について語るJWTアジア地区CEO Doctorof氏

冒頭、Doctorof氏は

「テレビの時代が終わったという見方は間違いだ。ただ、ソーシャルメディアの出現で、人々がお互いに情報や感情を共有する方法は劇的に変わった。その事実を受け止めた上で、こうした時代にふさわしいメッセージの出し方を考える必要があるということだ。」

と強調した上で、「トップダウン」と「ボトムアップ」という言葉を使って、広告やマーケティングコミュニケーションを考える上で、押さえておくべき変化について話をしました。

テレビ広告に代表されるマス広告においては、長年、企業・ブランドは「トップダウン」の視点、つまり「競争に勝って、市場シェアを取るためには、どういうイメージを人々に植え付ける必要があるのか」を最も重要な課題・目的として、広告メッセージを考えてきました。

しかし、こういう発想から生まれるメッセージは、独裁政党が出すスローガンと一緒で、退屈で人々の心を打つことはありません。

ブランドや製品に対するイメージというのは、人々の中から生まれ、共有されるものであり、マーケターの仕事は、それをコントロールすることではなく、受け入れることだとDoctorof氏は言います。

さらに、アップル社の「Designed by Apple in California」というキャンペーンを紹介した上で、これからのマーケターに求められるのは「ボトムアップで作られ、共有されるイメージに、いかにしてトップダウンのメッセージを織り込むか」である、として講演を締めくくりました。

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