8月6日から一週間、サンフランシスコで開催されているUX WEEK 2016 というイベントに参加してきました。イベントの詳細についてはブログでご覧いただくとして、今回はサンフランシスコでのUX体験についてご紹介します。
今、アメリカの都市を中心に「The ride-hailing company」と呼ばれるアプリを使ったタクシー配車サービスの勢いが増しています。ご存知の方も多いと思いますが、その代表的な会社の一つが2011年にビジネスをスタートしたUber。Uberに約3年遅れてLyftという会社も市場に参入、現在、両社はアメリカの都市で熾烈なシェア争いを繰り広げています。
変わっていく街と新たなビジネス
3年振りにサンフランシスコを訪れて驚いたことは、ホームレスの多さ。高層ビルがあちらこちらで建設されている一方で、長い間ビジネスをしていた個性的なカフェやショップは閉店。ここ数年で、サンフランシスコの不動産価格が上昇、小さなショップは存続できなくなっているようでした。また、駐車場の数が減り、駐車料金は上がり、これまで以上に市内を車で移動することが難しくなっているようでした。因みに、私が滞在したホテルでは、宿泊客でさえホテルのパーキングに駐車すると、一泊あたり$50かかるとのこと!
ユーザーのニーズをかなえてくれる新サービス、Lyft
一週間の滞在中、20回近く利用したLyft。サイトのトップページに書かれているコピーの通り、居場所をアプリで指定すると、数分で指定場所に車が到着。偶然かもしれませんが、乗車した全てのドライバーのコミュニケーション能力が高く、Lyftで働くことを楽しんでいる印象を受けました。最初に利用したLyftのサービスがあまりに良かったので、Lyftという会社について知りたくなり、乗車する度に、ドライバーに以下のような質問をしてみました。
・ ドライバーとしてLyftとUberの両方に登録しているのか?
・ LyftとUber、のどちらの会社が働きやすいか?
・ Lyft、あるいは、Uberで働くメリットとは?
3年先行してサービスを開始したUberに対して、後発のLyftが追い上げている理由が、ドライバーの回答から見えてきた気がします。(比較のために、Uberのサービスも数回利用。Uberでは「Wow」と思える体験はできませんでした。)
「Rides in Minutes」というキャッチ通り、数分でドライバーが到着しました。
最良のサービスはみんながハッピーになるエコシステムから
約50%のドライバーがUberとLyftの両方に登録。Lyftドライバーの回答は以下のような感じでした。
・ Lyftの方が勤務時間やお給料の受け取り方に柔軟性がある
・ 会社との連絡やお客さんをピックアップするためのアプリの使い勝手はLyftの方が優れている
・ Lyftの方がお客さんの質が良い
「お客さんの質がいい」という回答については、乗車したドライバーの殆どが同じ回答をするので、会社側がドライバーに模範解答例みたいなものを作っているのではないかと、疑うほどでした。
尚、Lyftの感想を利用者側からまとめると、以下が挙げられます。
・ 発注からタクシーの到着までの時間が短い
・ 乗車した車が清潔
・ 殆どのドライバーがお水やキャンディーをオファーしてくれた。また、美味しいお店など、オススメ情報も提供
・ ドライバーがとにかく感じがよく、仕事を楽しんでいることが利用者側に伝わる
タクシーを降りると、利用したドライバーの評価とチップの金額をアプリで確定、指定したアドレスにレシートが送付されてくる。また、支払いは登録したカードによる決済といったシステム。(利用方法については、Uberとほぼ同じ)
Lyftは、発注からタクシー到着までの時間が短いことを売りの一つにしているようですが、それを実現するために、猛烈な勢いでドライバーの数を増やしているとのこと。また、ドライバーはお客さんの依頼をアプリで受ける際に、行き際は確認できないようになっていて、オーダーを受けて始めてお客さんの行き先が分かるようになっているとのこと。これにより乗車拒否みたいなことが起こらないので、到着も早いのかもしれません。因みに、今年3月のFortuneの記事によるとLyftはニューヨークでの乗車時間を6分から3分に短縮することに成功したとのこと。
さらに、友達と一緒に利用した場合は、両方がLyftに登録していれば「割り勘」にすることができたり、「そういう機能があるといいな」と思うものが用意されています。これは、きっと、ユーザーのエクスペリエンスを徹底的に分析し、そこからOpportunityを洗い出すというプロセスを経ているからでしょう。
Lyftという会社が急成長している理由は、後発であることをメリットに変え、先発のUberを徹底的に分析し、Uberにはないユーザーエクスペリエンスを実現できているからだと感じました。しかも、利用側だけでなく、ドライバー側のエクスペリエンスにも重視したアプリを開発し、Lyftに関わる人達、全員をハッピーにするエコシステムを作り上げたことではないでしょうか?
(左) 現在地と行き先、車の種類を選択
(中央)乗車したドライバーにチップをするかどうか、また、その金額を決定
(右) ドライバーの評価とコメントを送信。利用側はドライバーの評価を★の数で評価でき、満点が星5つ、星の数の平均が4以下になると会社から呼び出しがあるそうです。
Lyftの更なる進化
日本でも配車システムアプリを使っているタクシー会社は増えています。先日、私がこれまで便利に利用していたタクシーアプリを使って、翌日の配車予約をしようした時、予約ができないとメッセージが表示されました。
国内の配車サービスアプリの画面
この配車アプリがロンチされた時は、よく出来ていると感激し、頻繁に利用したものの、ここ半年がっかりする経験が続いています。予めタクシーを予約し、確実に目的地へ向かいたいというニーズに対して、あっさり拒否されるという経験は、これまで頻繁に利用していただけに、何とも残念。また、残念という気持ちだけでなく、「タクシーを予約しようとしているユーザーが期待するエクスペリエンスとは何か?」について、この会社は分析していないのではと思うと、予約システムだけでなく、その会社の在り方についても疑問を感じてしまいます。
LyftやUberのような「The ride-hailing company」の弱みはスマホを使ってアプリを操作できなければ利用できない点です。この弱点については、Lyftのドライバー曰く、病院や買い物にタクシーを利用したいけどスマホを使えないシニア層に対して、マイクロソフトと共同で新サービスを開発中とのこと。
変化し続ける街、人々の生活。サービス利用者と提供者の双方のエクスペリエンスをハッピーにさせるエコシステムを作り上げることができれば、たとえ、後発でもシェアを奪えるチャンスは充分ある。そして、シェアだけでなく、人々の気持ちをも豊かにすることができる。Lyftでの体験は、そんなことを実感させてくれました。I miss Lyft!
ルグランでは、ユーザーが求めていることは何かをエクスペリエンスマップを基に分析し、新たなビジネスチャンスを見つけ出すワークショップを行っています。ご興味がある方は、お問合せください。