2016.06.30 | UX

スマホで簡単にタクシーを呼べる配車サービスを提供するUber。企業評価額は8兆円と、海外ではGMやホンダを凌ぐレベルになったとも言われていますが、日本では、タクシー業界からの反発や法規制の壁があり、サービスの認知や利用は、まだまだこれからという感じです。

一方、日本のタクシー業界でも、配車や予約のできるアプリの開発・提供を進めており、その先頭を走っているのが日本交通でしょう。自社タクシーの配車アプリだけでなく、「全国タクシー」というアプリも開発し、提携する全国のタクシー会社に提供しています。

<何かと便利な日本交通の配車アプリ>
30_日本交通アプリ

筆者も、都内の移動には、日本交通の配車アプリを良く利用する、かなりのヘビーユーザーです。配車や予約はもちろんのこと、クレジットカードを登録しておけば、お金やカードをやり取りしなくても決済ができるので便利です。また、海外からのクライアントにタクシーを呼んであげるときなどは、予約の際に、行き先も事前に登録できるので、大変に重宝しています。

そんな日本交通のアプリですが、先日、ちょっと使い方がわからず苦労することがありました。

それは登録しているクレジットカードの番号は変わらず、有効期限だけが更新された時のことです。

アプリ側からは「カードの有効期限が切れている」というメッセージが表示されるのですが、個人設定画面から「クレジットカード」ボタンを押すと、クレジットカード選択画面に行けるのですが、そこから先は、何度やっても、カード情報の編集ができずに、元の画面に戻されてしまいます。(図1)

<図1>
30_日本交通_図1

仕方なく、サポートに電話をしてみると、何のことはなく、「アカウント」ボタンを押して「クレジットカード選択画面」に入れば、画面の見た目はまったく一緒ですが、カード情報の編集が可能になるとのこと。

<図2>
30_日本交通_図2

つまり、新規のクレジットカードの追加登録の操作は、「クレジットカード」ボタンからでも、「アカウント」ボタンからでも行えるが、登録済のカード情報の変更だけは、「アカウント」ボタンから入らないと行えないようになっているのです。

アプリの作り手側には、この線引きに、きっと何かの意味はあったのでしょう。

ただ、本ブログでも再三書いている通り、最良のUXを実現するためには、使う側の目線に立って考えることが重要です。この件についていえば、クレジットカードに関する操作は「クレジットカード」というボタンを押したくなるという利用者の気持ち(=アフォーダンス)を理解していれば、おそらく、違った作り方ができたでしょう。

ちなみに、こちらのアプリは、以前、シンガポールで利用したタクシー会社のものです。基本的な機能は日本交通と大きく変わりませんが、秀逸なのは「ドライバーに電話をかける」という機能があること。

<シンガポールのタクシー会社の配車アプリ>
30_シンガポールTaxiアプリ

日本交通のアプリを利用していると、時々、指定した場所にタクシーが来なかったり、アプリで現在地を確認すると、ちょっとずれた場所に停まっていたりすることがあります。

こういう場合、日本交通はサポートセンターに電話をして、そこからドライバーに連絡を取ってもらわなければなりませんが、このシンガポールのタクシー会社の場合、ドライバーと直接話ができるので、実際、筆者も、海外のカンファレンス会場の中で、ドライバーと直接話をして、迎車の場所を細かく指定することができました。

こういう問題は、ユーザビリティの改善とはまた異なる話で、利用者がタクシーを呼ぶときに何を考え、どういう行動を取るかを追体験しながら改善のポイントや方法を探っていくというアプローチが有効です。

弊社では、通常、クライアントさんと一緒に、ワークショップを通じて、『エクスペリエンスマップ』を作りながら、どうすれば、もっと優れた利用体験を提供できるのかを一緒に考え、最良のUXデザインにつなげるお手伝いをしています。

いまは岩盤規制に守られている日本のタクシー業界ですが、いつか、この防波堤が決壊したとき、勝負を分けるのは、誰がタクシーを呼びたい利用者にとって最も快適な利用体験を提供できているか、で決まるはずです。UXは単なる見た目のデザインやユーザビリティの話ではなく、競争戦略の一端をなす重要な経営課題ととらえる姿勢が必要になるでしょう。



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