2015.05.19 | コラム
大阪府と大阪市の二重行政のムダを無くすことなどを目的に、大阪市の橋下市長が提唱した「大阪都」構想。その賛否を問う住民投票は、地方自治・住民自治についての新たな取組ということで、全国的にも注目されましたが、結果的には、得票数で1万票余り、得票率で0.8%ポイントの差で、反対が賛成を上回りました。

選挙や住民投票は、世論調査と異なり、どんなに僅差であっても、多くの票を獲得した方が「民意」を代表するというルールのもとに行われるものですから、制度上は、今回の住民投票の結果が、大阪市民の「民意」ということは疑いの余地がありません。

一方で、今回の投票行動を世論調査として見た場合、本当に今回の結果は「民意」を代表するものなのかを検証してみたいと思います。考え方としては、こんなイメージです。

今回、みなさんは大阪都構想に関する広告キャンペーンを行い、「賛成訴求」と「反対訴求」の2パターンの広告のA/Bテストを行い、どちらの方がより多くクリックされるかを検証することで、どちらの訴求の「ウケ」が良いかを見極めようとしています。

(A) 広告のインプレッション=当日有権者数(2,104,076人)
(B) 広告のクリック数=賛成・反対の票数
(C) 広告のクリック率= (B) ÷ (A)

広告の配信結果を集計してみたところ、各パターンの「クリック率」は、以下の通りとなりますが、

   賛成訴求:33.02%
   反対訴求:33.53%

ここで、マーケターとしては、反対訴求の「ウケ」が良かったので、今後の広告は反対訴求に「一本化」してしまって良いかどうかを決める必要があります。

こういう場合に、よく用いられるのが、統計の仮説検証というプロセスです。

これについては、以前、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の視聴率分析を例に解説した例がありますので、よろしければ、こちらも読んでみて下さい。

検証結果については、下図の通り、「99%の確率で反対訴求のクリック率が高いと言えるために必要な誤差の範囲を想定する」というかなり厳しい条件をつけた場合でも、反対訴求の広告のクリック率は33.40%〜33.60%の範囲に収まることとなり、レンジ内で最も低い場合でも、賛成訴求のクリック率=33.02%を上回ります。

<大阪都構想 住民投票結果の仮説検証>

つまり、反対訴求の広告のクリック率が賛成訴求を上回ったという結果は、統計的には99%の確率で正しいと考えられる、という結論が得られます。

ただ、悩ましいのは、全体のクリック数に占める「反対訴求」のクリックの割合は、50.18%〜50.49%と、確かに「賛成訴求」を上回ってはいるものの、その差は極めて僅かであり、果たして、広告を「反対訴求」に一本化することで、本当に消費者(有権者)から、そうしない場合に比べて、大きな支持を得られるのか、ということです。

少なくとも、これが広告運用の現場で起きたことであれば、いくら統計的に有意であっても、今回の結果だけで「反対訴求」に一本化しても、それほど大きな効果の改善にはつながらない可能性が高い、と考える人の方が多いのではないでしょうか?

一方、「制度上」では、大阪都構想はNO・大阪市は存続という「民意」が示された今回の住民投票。果たして、今後、大阪市政は「反対訴求」に一本化していくのでしょうか?

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2015.05.18 | コラム
全国的にも注目を集めた大阪都構想を巡る住民投票は、反対が賛成を上回るという結果となりました。

一方で、テレビ局が実施した年代別・男女別の出口調査の結果を見ると、20代〜60代までは、賛成が反対を上回っていたことから、ネット上では「現状を変えたくない老人たちに潰された。」「老害だ。」といった意見も多く見られますが、本当のところはどうだったのかを、データで検証してみたくなりました。

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2015.04.09 | UX
円安の進行や、東南アジア諸国における訪日ビザの緩和・羽田空港からの国際線増強などの影響により、海外から日本を訪れる旅行客は急速に増加しています。

2020年の東京オリンピックに向けて、日本への渡航者はさらに増えると期待されており、急拡大が見込まれる「インバウンド消費」を取り込もうと、弊社にも多言語でのサイト構築や、マーケティング戦略の企画・実施に関するご相談も増えています。

とはいえ、日本語で作ったサイトを各国語に翻訳しただけでは、言葉も習慣も異なる外国人利用者のココロをつかむことは難しいでしょう。そこで、弊社がお薦めしているのが、ターゲットとなる国や地域の外国人ユーザに、実際にウェブサイトを利用してもらう「行動観察調査」です。

「行動観察調査」とは、被験者に実際にウェブサイトを利用してもらい、その様子を観察した上で、直接インタビューも行うことで、サイトのコンテンツや使い勝手に関する問題点や改善点を素早く洗い出すことができる手法です。アクセス解析に関する過去データの蓄積が充分でない場合や、異なるターゲットの属性毎に反応の違いを見たいといった場合には、特に有効な調査手法と言えるでしょう。

先日、弊社では、香港や台湾などアジア圏の女性ユーザを対象に、あるサイトの行動観察調査を行いました。調査は、まず、対象となるウェブサイト上で、被験者にどういう「タスク」を行ってもらうかという課題の設定から始まります。

まずは課題の設定から

 被験者が課題を理解したところで、いよいよ、実際にサイトを使い始めてもらいます。

被験者がサイトを利用する様子は、ビデオカメラで録画すると同時に、別室にあるモニターにもリアルタイムで映し出されます。弊社のコンサルタントやデザイナーは、それを見ながら、課題の中で与えられた「タスク」をこなすために、被験者が、どういうコンテンツを、どういう順序で読んでいくのか、また「タスク」を完了するプロセスの中で、被験者が迷ったり、動きを止めたりする箇所はどこか、といったことをチェックしていきます。

被験者がサイトを利用する状況を別室でモニタリング

さらに、「タスク」を完了した後は、被験者とインタビューを行い、サイトのコンテンツや使い勝手に関する印象や感想をヒアリングします。特に、被験者が戸惑ったり、間違った操作をした箇所については、「何かわかりづらかったのか」といったことも念入りに聴き取ります。

被験者からのヒアリングで生の声を収集

このヒアリングは、アクセス解析などのデータだけでは知り得ない、様々な情報を収集できる絶好の機会となります。

特に、外国人利用者をターゲットする多言語サイトの場合、日本人の観点から良かれと思って作ったコンテンツが、想定通りの評価や成果につながらないという場面にしばしば遭遇します。

たとえば、外国人が何に対して「日本らしさ」を感じるかといった点は、インタビューをしてみると、我々日本人の想像とは全然違ったフィードバックが返ってくることも少なくありません。

今回の行動観察調査でも、「サイトに記載する一部のコピーは、あえて日本語の表記を残すことで、クールな印象を与え、それは、日本の商品やサービスに対する高い品質を想起させる」といった意見も出され、サイトのコンテンツやデザインを考える上で、大変参考になりました。

拡大が見込まれるインバウンド消費の取り込みに向けて、多言語サイトの構築やリニューアルを考えている方は、ぜひ、一度「行動観察調査」を行い、外国人ユーザのココロをつかむウェブサイト作りに活かすことをお薦めします。

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電話:0120-066-898(フリーダイヤル)

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2015.03.26 | イベント
SESロンドン2日目の冒頭では、ブランドやメディア・エージェンシーなど、異なる立場でマーケティングに関わる4人のパネリストによるディスカッションが行われました。

モデレータ役を努めたMarin Software社のJon Myers氏から投げかけられた「ブランドが、多様なメディアを通じて一貫性のあるメッセージを伝えるために考えるべきことは何か?」という質問に応える形で、ディスカッションはスタートしました。

左から、Myer・Day・Murray・Gomez・Wallaceの各氏。

LEGO社で検索エンジンマーケティングを統括するGomez氏が、「LEGOでは、多様なチャネル・デバイスを通じて、共通のカスタマーエクスペリエンスを提供することが大切だと考えている。」と答えたのに続き、Facebookで金融関係のクライアントを担当しているDay氏は、昨年のスーパーボウルで、会場が停電した際にオレオが見せた当意即妙な対応を紹介し、「ブランドメッセージを効果的に伝えるためにはシチュエーションとの適合性が大切なのではないか」と答えました。

これに対し、Mindshare社でデジタル戦略を統括するWallace氏は、「ちょっと待ってよ。オレオの事例は確かに秀逸だと思うけど、あんなシチュエーションは滅多に起こらないのだから、あれを真似しようなどと考えない方が良い。」と切り返し、会場は笑いに。

するとMicrosoft のMurray氏は、「そもそも、検索エンジンやFacebook・Twitterなど、メディアによって、ブランドに関する情報を探そうとする人の目的や態度は違うはず。とすると、ブランドアイデンティティは1つでも、探されるシチュエーションごとに、コミュニケーションの方法やスタイルは変えるべきでは。」という問題を提起。

モデレータ役のMyers氏は、これを引き取って「ブランドメッセージは1つでも、その伝え方はオーディエンスによってパーソナライズが必要ということだね。」とまとめたところ、再び、MindshareのWallace氏は、「パーソナライズの重要性に議論の余地はないが、1to1の実現は言うほど簡単じゃない。だいたい、言わせてもらうと、Facebookは戦略や仕様を頻繁に変えすぎ。マネタイズの重要性も理解はするが、データにもとづくパーソナライズが実現できるよう、もっと努力して欲しい。」と厳しいツッコミをいれ、会場からは拍手も。

これに対してFacebookのDay氏は、「Facebook広告の出稿量が劇的に増える中、広告=ノイズにならないよう、適切なシチュエーションで広告を配信するようアルゴリズムの改良を進め、ブランドの期待に応えようと努力はしている。」と防戦に回る一幕も。

さらに「カスタムオーディエンスや類似ユーザーターゲティングといった機能も、積極的に活用して欲しい。」と、やや宣伝めいた発言をしたところ、MicrosoftのMurray氏は「みなさんがアドワーズやFacebook広告の最適化にかけている時間と労力のほんの一部をbing広告にも向けてくれれば、まだまだ成果はあげられると思いますよ。」という、これこそ「当意即妙」な発言で会場の笑いを誘ったところで、ディスカッションは終了となりました。

日本では、どうしても予定調和的になってしまいがちなパネルディスカッションですが、ユーモアをはさみながらも、時にガチンコで本音トークが始まるディスカッションが聞けるのも、海外カンファレンスならではの楽しみと言えそうです。

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2015.03.18 | イベント
前回はキットカットのソーシャルメディア戦略に関するセッションについてご紹介をしましたが、今回は、同じセッションに登壇したクチコミサイトYelpのソーシャルメディア戦略に関する講演内容にも触れてみたいと思います。

Yelpのソーシャルメディア戦略について話すAkenhead氏

登壇したAkenhead氏は、「Yelpを支えているのはレビューと、それを読み書きしている人たちのコミュニティ」であり、頻繁にレビューを書く「ヘビーユーザー」と良好な関係を築くことが、自らの最大のミッションであるとした上で、仕事を進める上で大切にしている3つの原則を紹介しました。

1. コミュニティを見つけてこちらから働きかけよ

クチコミサイトの利用者は、好きな時に、好きなことを、自分の感じたままに書き込むだけで、「本当はこうして欲しかった。」「こうすればもっと良くなる。」といったことを、わざわざ伝えにきてくれる訳ではありません。

たとえば、あるお店について、気になる評価やコメントが交わされているといったことを発見した場合には、こちらから、そういう書き込みをしている人たちに積極的に働きかけることで、彼らの「真意」を把握できる可能性が高まります。

2. 意見やアイディアを組み上げる仕組みを作る

Yelpにとって、ユーザーと同じくらい大切なのは、広告を出してくれる飲食店などのオーナー達ですが、ユーザーから、好き勝手な評価にさらされたり、「自分達からカネをむしり取ることばかりを考えている」とYelpを毛嫌いするオーナーも少なくないそうです。

そうしたオーナー達の理解や協力を得るための仕組みとして、Yelpでは、「モノ言うオーナー」達をアドバイザリーカウンシルのような組織に取り込み、彼らの意見を吸い上げるような機会を設けたりすることも有効だと言います。

3. 特にヘビーユーザーとの関係を大切にする

Yelpに書き込まれる「好き」「嫌い」というコメントや評価は、あくまでも各人の「主観的」な評価である訳ですが、一方で、読み手からすると、そうした評価も、お店の良し悪しを判断する「客観的」な基準として受け止められてしまう傾向があります。

主観にもとづく評価やコメント自体を変えたりすることはできませんが、頻繁にコメントを書くヘビーユーザーがネガティブな書き込み・評価をした場合には、他のユーザーにも少なからず影響を与えることになります。特にそうしたコメントに対しては、決して感情的にならず、丁寧な回答をすることが求められます。

クチコミサイトにおいては、ネガティブな評価やコメントへの対応が常に難しい問題となります。ネガティブなコメントや評価を受けたときほど、真摯かつ丁寧に回答することで、評価者本人の気持ちを変えることはできなくとも、そのやり取りを見ている他のユーザーに対しては、良い影響や印象を与えることができる可能性が高くなる、というアドバイスで、Akenhead氏は、講演を締めくくりました。

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