NTTデータグループの総合気象情報会社である株式会社ハレックス。オリジナル気象システム 「HalexDream!」を開発し、気象予報士の知識とITの技術を融合することで様々な企業や分野での問題解決に活用しています。日本でも数少ない総合気象会社である同社の取り組みについて、また、当社との協業で開発したファッションテックサービス「TNQL」について、代表取締役社長 越智 正昭氏にお話を伺いました。
-まずは、御社の提供するサービスやミッションについてお聞かせ下さい。
当社が提供するのは、気象情報です。ただし、天気や気温といった単なる「データ」を配信するのではなく、使う人のさまざまな状況を加味し、その人に役立つ情報として付加価値をつけて提供するというのが、当社のサービスです。世の中の根底にあるインフラは地形と気象。気象という要因は、人々の行動や判断に自然に常に組み込まれています。それを適切な形で提供することによって、人々の生活や産業に役立てていく。それが、NTTグループの気象会社としてのあるべき姿だと思っています。
-今年3月に、気象庁や民間企業など約50社・団体が発起人となり『気象ビジネス推進コンソーシアム』が設立されました。近年、気象ビジネスを推進する動きが出てきていますが、そのことについてどのようにお考えですか?
これまでの気象データは天気予報として提供されるのみで、広くビジネスに活用されるものではありませんでした。しかし近年、気象データを上手に取り入れてもっと色々な産業で活用しようという方向に向かっています。気象情報は、データに解釈を入れてはじめて役に立つ情報になる。そこに気づいたということが、設立の背景にあるのです。
このコンソーシアムのなかで当社が特に力を入れているのは、人材育成です。世界的にはAIを使って気象データを活用しようという動きもありますが、当社が重要視しているのは、気象予報士の知恵。そのためにも、世の中に気象の専門家をたくさん送り出すことが重要と考えています。
-平成25年の調査結果によると、気象予報士の男女比は男性が88%、女性が12%になっています。今後はどのようになっていくのが理想でしょうか。
気象予報士に必要なのは、大量のデータを分析する力、そしてそれを適切に解釈する力です。一般的に、男性はデータの分析、女性は適切に解釈をして新しい価値を創造する能力が高い傾向があります。現在は気象予報士の大半が男性ですが、もっと多くの女性気象予報士が活躍することでバランスが良くなり、ビジネスが広がっていくことが期待されています。
-貴社サイトには「情報はそれ自体だけでは、ほぼ価値がないもの」と記載されています。では、価値のある情報にするためには、どのようにすれば良いのでしょうか。
降水量を例に挙げてみましょう。降水量0.5mm未満の場合、一般の天気予報では雨予報を出します。しかし、当社が提供するゴルファー向けの天気予報では、0.5mm未満であれば雨予報にはしません。ゴルフに行って途中で雨が降ってきたとしても、0.5mm未満程度の雨であれば多くのプレーヤーはそのまま続けます。同じ降水量であっても、天気予報を見る人によって雨と判断することもあれば、しないこともある。これが、気象データの正しい活用です。気象データを人々の行動や判断に結びつけて総合的に判断することで、それが価値のある情報になります。気象システムの主役は、気象ではなく人。人の行動や判断のために気象データがあるのです。
-そのことを企業や一般消費者が正しく理解すれば、もっと様々な場面で気象を活用できるようになりますね。
そのデータが自分にとって、あるいはユーザーにとってどのような意味があるかを正しく判断することで、生活や産業の問題解決や発展につながるでしょう。当社のような気象会社だけでなく、その情報を使う企業側も気象のどのファクターがどの事業と関係するのかをしっかりおさえ、それをモデル化・構造化していくことが重要であると考えます。
-今般、弊社と協業し、ファッションテックサービス「TNQL」を開発した理由や背景についてお聞かせ下さい。
「TNQL」のベースになっているのは「体感温度」です。暑さ、寒さといった体感温度は、気象データとは必ずしも一致しません。気温、湿度といったデータは数値でしかなく、そこに風や照り返しといった地域の環境が組み合わさってはじめて、人間が感じる温度になります。そこに着目してファッションに結びつけているところが、このサービスのすばらしい点だと考えます。可能性がたくさんあり、今後の展開が期待されるサービスだと思っています。
-今後の「TNQL」に特にどのようなことを期待されますか?
まずは2020年の東京オリンピックに向けて、多言語化に期待しています。旅行者にとって、その地域に合った洋服を準備することは非常に重要で、かつ非常に難しい問題です。特に日本の気候は、外国人にとってはとても複雑。たとえば、チュニジアから来た旅行者にとっては日本の夏は耐えられない暑さだと言います。気温だけみれば、南米のチュニジアより日本の夏の方がはるかに低いですが、湿度が高いため外国人にとっては厳しい暑さになるのです。日本の気候を知らない外国人旅行者にとって、「TNQL」は洋服の問題を解決するのに非常に役立つサービスになるでしょう。
この仕組みは、これから様々な業界で活用していけると思います。ユーザーを増やしてもっと広めることで、気象情報で世の中がここまで変わるということを示していきたいですね。
-貴社の今後の目標について、お聞かせ下さい。
気象情報は、データを誰がどうつないでいくかでその価値が変わります。気象予報士1人1人の知識と頭脳を使ってはじめて、データが有用な情報となるのです。気象データという情報(information)とそのレシピ(intelligence)を組み合わせて、今後も大きく展開していきたいと思っています。