同社が提供するプラットフォームの最大の特長は、来訪者の閲覧・行動履歴に関するデータを収集・解析し、来訪者個々のニーズや目的に応じて、パーソナライズされたコンテンツや情報を提供することで、最良のカスタマーエクペリエンスを実現できる点にあります。
弊社では、昨年8月に、サイトコア社のロンドンオフィスを訪ね、同社のパーソナライズ戦略やカスタマーエクスペリエンスの向上に携わるSitecore Business Optimization Services (SBOS)のメンバーから、欧米市場におけるマーケティングオートメーションの最新動向や導入事例について話を聞く機会を得ました。
今般、そのSBOSチームのメンバーが”Connect: How to Use Data and Experience Marketing to Create Lifetime Customer” という書籍を上梓したと聞き、さっそく読んでみました。
著者はみなサイトコア社のメンバーですので、同社のプラットフォームの紹介が中心の書籍なのかなと思っていたのですが、読んでみると、そうした予想は良い意味で裏切られました。
企業が、今後パーソナライゼーションやマーケティングオートメーションを実装しようとする場合に考えるべきポイントや、予想される障害などが具体的に書かれていたり、また、欧米企業において、カスタマーエクスペリエンスの改善を実現した事例なども随所に紹介されていたりと、サイトコアを導入するか否かに関わらず、多くのマーケターにとって示唆に富む内容の一冊でした。
今のところ英語版しか出版されていないようですので、以下、本書の内容を簡単にご紹介したいと思いますので、もし、英語でも苦にならないというマーケターの方は、ぜひ、本書で詳しい内容をお読み頂ければと思います。
本書は『エクスペリエンス・マーケティング』を中心的なテーマとして書かれており、これからのデジタルマーケティング戦略は、「最良のカスタマーエクペリエンスの提供」を目的として考えられるべきである、ということが繰り返し説かれています。
ここで、サイトコア社のタグラインにもなっている”Own the Experience”という言葉がキーワードになる訳ですが、これは最良のエクスペリエンスとは、偶然の産物として提供されるのではなく、客観的なデータの収集・解析による顧客理解に基づき、周到な準備と戦略のもとにマーケター自身が演出・提供すべきものなのだ、ということを意味しています。
一方で、エクスペリエンス・マーケティングを実践するために必要となる環境や体制の準備状況は企業毎にまちまちであるため、本書では「カスタマーエクスペリエンス成熟度モデル」というフレームワークを使って、まずは自社の現状把握をすることを薦めています。
<カスタマーエクスペリエンス成熟度モデル>
このモデルでは、最良のカスタマーエクスペリエンスを提供するために必要かつ充分な体制を構築するまでのプロセスを7段階に分けていますが、それらはさらに大きく3つのステージに分類されています。(1) Attract: 一方通行の情報発信によりトラフィックを集める段階
(2) Convert: 一定のルールに基づくコンテンツのパーソナライズやA/Bテストなどを実施している段階
(3) Advocate: オンライン・オフラインの行動履歴やアルゴリズム予測に基づくマーケティングオートメーション(Mass Personalized Service)が実現している段階
ちなみに、サイトコア社では、これまで1,000以上の企業・組織に対して、成熟度の診断を行った結果、驚くべきことに85.4%の企業・組織は、まだ第一段階(Attract)にあることがわかったとしており、換言すれば、他社に先駆けてアクションを起こすことで、まだまだ先行者利益が期待できるということでもあります。
最終ゴールとして、全てのマーケターは、第三段階(Advocate)を目指す訳ですが、ここで最も大切なことはSingle View of the Customer、つまり企業に所属するすべての組織・人が、同じ基準や尺度で顧客に関する情報やデータを共有できるかどうか、という点が強調されています。
但し、これは、言うのは簡単ですが、実際には、多くの企業において、理想の実現にはさまざまハードルが立ちはだかります。本書では、特に以下の3点を、重要な克服すべき課題として挙げています。
1.技術的なハードル
オンライン・オフラインの様々な顧客データを統合し、パーソナライズや、予測に基づくリコメンデーションにつなげるための技術やプラットフォームが利用可能な状態にあるかが重要なのは言うまでもありませんが、実際には、それ以前の段階、つまり、既に、社内に導入されている様々なツールやテクノロジーの存在が、往々にして障害になると指摘しています。
たとえば、営業部門はCRMツールで顧客やリードの管理をしているが、マーケティング部門ではソーシャルメディアの管理ツールを使って情報の発信や対話をする一方、ウェブ解析ツールを使って来訪者動向を分析しているのは情報システム部門、といった企業は少なくありません。
こうした場合、実際には同一顧客の情報や行動履歴であっても、それぞれが独立した別のデータとして把握・分析されることになります。しかし、各部門において、既存ツールの導入に要したコストや現行の体制などを考えると、それらを捨てて、新たなツールやテクノロジーを導入するという判断には踏み切れず、結果的にカスタマーエクスペリエンスが犠牲になるといったことが多くの企業で起きています。
2. 組織的なハードル
こうした課題を克服するためには、部門を超えた目標や戦略の共有が不可欠ですが、そのためには、経営層によるリーダーシップが必要となります。本書では、最後の1章を割いて、エクスペリエンス・マーケティングの重要性を経営層に理解してもらうためのヒントを紹介しているほか、経営陣を交えて、カスタマーエクスペリエンスの重要性を理解するためのワークショップを開催することも有効だとしています。
3. 人的なハードル
Econsultancyという調査会社のレポートによると、94%の企業がパーソナライズ戦略は今後のマーケティング戦略において不可欠であるとしながらも、72%の企業が、どうやってパーソナライズ戦略を実装してよいか分からないと回答しています。
実際、本書においても、パーソナライズ戦略を進めるにあたっては、データの分析を顧客理解につなげるアナリストや、カスタマーエクスペリエンスをデザインする「エクスペリエンスアーキテクト」など、これまでのマーケティング組織には無かった新しい役割を担う人材も必要であると指摘しています。
以上が本書の概要となりますが、実際、弊社においても、サイトの構築やリニューアルのご依頼を頂いた際には、その初期段階で、クライアント企業の経営陣も招いたワークショップを開催し、ウェブサイトの果たすべき役割やカスタマーエクスペリエンスのあり方について、組織共通の認識を醸成することから始めることも少なくありません。
また、データの解析による顧客理解や、それに基づくペルソナ作りやパーソナライズ戦略といった部分については、弊社のスタッフがプロジェクトチームに参画することで、クライアント企業側の人的なハードルを解消し、パーソナライズやマーケティングオートメーションの実装がスムーズに進むようお手伝いもしていますので、どうぞ、お気軽にご相談下さい。
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