2015.07.22 | UX
アップルのWWDC(Apple Worldwide Developers Conference)2015レポート第3弾(最終回)です。

新型OSを基盤にしたアップルが公開した10項目リストの中、UX の視点から最初に気になったのは、スプリットビュー等によるマルチタスク機能です。ソーシャルTV番組をサポートする「セカンドスクリーン」的なコンセプトが普及した今では、複数のスクリーンを使いながらのマルチタスクは、もはや当たり前の光景です。

昔々のアップルユーザは、その当時、小さなモニターをCPUに搭載したアップルコンピュータ1台を頼りに、グラフィック・アプリをひとつひとつ起動/終了させてはデザイン作業を続けるという、いたって平穏な1日を過ごしていました。もちろん、メールやテキストは、まだ存在しません。でも、今のアップルユーザはどうでしょう?少なくとも、このコンベンションに来ていたほぼすべての人たちは、アップルウォッチを身にまとい、iPhone を持ち、iPadやMacBookPro をメインに使っていました。複数デバイスを使用することで、個々のデバイスを使用する時間は、確実に短くなっています。しかも、新型OSですと、さらにひとつのデバイスでも、簡単にマルチタスクができてしまいます。

つまり、各デバイスに対するユーザのアテンション・スパンは着実に短くなっているのです。アップルが推奨する、アップルウォッチでのユーザのインタラクション・タイムは、僅か数秒です。個々のユーザに対して、ユーザブルな情報を提供できなければ、その僅か数秒のインタラクションも発生しません。

例えば、こんな流れを考えてみましょう。このWWDC2015のコンベンションの最中、手元のウォッチに緊急の通知がありました。その詳細メッセージを読むため、ポケットからスマートフォンを取り出しました。それによると、緊急エクゼクティブ・ミーティングがあり、そこに提出するレポートにイメージを添付して送って欲しいとう用件でした。そこで、各階に設置されている近くのデスクをワークステーションとして選び、鞄からタブレットやラップトップを取り出してその作業をしました。そして、通知から30分後、無事にレポートをメールすることができました。それからしばらくすると、電話にテキストで「サンキュー」のメッセージが届きました。

実際にはどうだったのでしょう?もしもこのユーザが、最初にウォッチに届いた「緊急の通知」を「緊急を要するものではない」と理解してしまっていたら、緊急会議用のレポートは送られていないですよね。ここにUXの大切なキーポイントがあります。ご存知のように、ウォッチのUIデザインは色々な面で限られています。フォントも色も含めて、そのデザイン・オプションは、いたってミニマムです。これらの制約の中、この例にあるユーザに対して、本当に緊急を要する通知を配信しなければなりません。この通知が、見やすく理解しやすい優れたデザインであることはもちろんですが、カギは、このユーザに対して通知が、本当にパーソナライズされたタイムリーな情報だったのかどうか?なのです。

各ユーザのプライオリティーは異なります。今回の例では、ずっと楽しみにしていた興味あるレクチャーに参加しているこのユーザに届いた通知機能が、あと残り30分あるレクチャーから退席してまでも、ユーザに今すぐレポートを書くべきというプライオリティーを伝えなければなりませんでした。これは、レクチャーに参加していたユーザの現況をも理解しつつ、的確な情報を的確な手段で伝えていたということです。

例えば、ジムで2時間みっちりとワークアウトしました。充実感と共にシャワーを浴びてリフレッシュしました。そして、家にたどり着いてビールを飲んでリラックス・・・そんな時にミュージックアプリを開いてみたら、今のあなたへのオススメはコレ!と表示された音楽が、すべてアップテンポなダンスミュージックだったとしたら・・・そんなミュージックアプリはもう使いませんよね。

このUIの裏側にあるAI(アーティフィシャル・インテリジェンス)こそが、新たなUXのカギなのです。これは、新しいコンセプトでも何でもありません。アップルの競合他社の多くは、既にこのコンセプトに注目して、もう何年も前からこれらを取り巻く課題にチャレンジしています。先に書きましたが、表面上のUIを取り込むことは意外に容易でした。でも、この裏側にあるAIは模倣できません。そう簡単には作り上げられないものなのです。今まさに、アップルもこのAIを基盤に勝負しなければならなくなりました。アップルミュージックやニュースを提供し、そしてSwiftがオープンソースに公開したのも、まさにこのAIを効率的に素早く確立するためでしょう。そして今、アップルはSiriを強化することに躍起になっています。他のジャイアントと比較しますと、その縮めなければならない距離は、明らかにありそうです。しかし、アップルはウォッチ、タブレット、スマートフォン、ラップトップ、デスクトップのすべての分野で確固たるシェアを持ち、同時にそのエンジンをも供給していることを忘れてはなりません。

インテリジェント・サーチと強固なクラウド・サービスを駆使して、ユーザが今、何をしていて何を欲しているのか、そしてその次には何を欲するのかを判断する。瞬時にユーザ・アクションを起こさせる切実なユーザエクスペリエンスをデザインできなければ、これからのマーケットで競争していくには、同じリングの上にも立てないようです。さぁ、私も早速、これらのアルゴリズムを再検証してみることから始めましょうか。

最後にアップルのセッションのひとつで表示されたコメントを一言。 Focus on personal communication, holistic design, lightweight interaction, and beauty and delight.「私的なコミュニケーション、総体的なデザイン、軽量なインタラクション、そして、美しいことと楽しいことに焦点を合わせましょう。」



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