「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というフレーズをたまに目にします。1980年頃にツービートが漫才の中で用いたのが広まったキッカケという説がありますが、当時の意図はともかくとして、現在は「悪いとわかっていることでも、周りがやっていると自分もやってしまう」というような意味合いで使われている言葉です。実際、車もほとんど通らないのに何故か信号が設置されており、誰も従っていないような信号もありますが、こうした場所で信号無視する人に、「道路交通法に違反しているからやめなさい」と言ってみたところで、恐らく困惑されて終わるだけなのではないでしょうか。
信号の例がいい例かどうかはわかりませんが、最近「漫画村」という違法に(厳密には法の抜け穴をついているので違法ではないとの主張もある)漫画をアップロードしているサイトをめぐり、ネット上では利用者も含めて是非が問われ、議論を呼びました。
まず最初に、本ブログが、こういった違法な海賊版サイトを擁護・増長する目的は一切ないということを明言した上で、この「漫画村」問題について考えてみたいと思います。
– 漫画の売上は下がっている?
公益社団法人「全国出版協会」のデータでは、漫画の販売額は年々減少する傾向にあり、漫画村などの違法サイトが横行していることが少なからず影響している可能性はあります。
取り締まってもまた同じようなサイトが出てくる上に、漫画村のように取り締まり対策までするサイトが出てきてしまっては、なかなか状況が良くなりません。「違法サイトは使わずに、漫画を買ってください!」と作家さんたちが訴えてみても、多くのユーザーにとっては利用をやめる理由にはなりません。ではどうすればいいのか?同じような問題を抱えてきた、音楽業界を例にとって考えてみましょう。
– 聞き放題サービスの台頭
音楽業界は既にSpotifyやApple Musicといった、聞き放題のサービスが浸透しています。Apple Musicは月額980円、Spotifyは広告表示をはじめとするいくつかの制限がついた無料版と、月額980円の有料版があり、こちらも登録されているアーティストの曲は聞き放題です。Spotifyは「一部の楽曲やアーティストに対して正当な支払いがなされていない」として訴訟されるなど、聞き放題型のサービスにはまだまだ問題がありそうですが、音楽業界においては既に重要な役割を果たしています。
漫画業界においては、月額で漫画が読み放題というサービスは数多く存在していますが、いずれも人気作品を取り扱っていないサービスが多く、流行りのヒットチャートをチェックできる音楽の聴き放題サービスと比べると見劣りしてしまいます。ウェブ上で手軽に、人気の漫画が好きなだけ読める公式のサービスがあれば、多少のお金がかかっても利用する人は多いのではないでしょうか。漫画村問題によって需要が明確になったのは、むしろチャンスと言えるかもしれません。そしてそういったサービスが普及すれば、わざわざセキュリティ上の危険を冒して海賊版サイトを利用する必要もなくなります。
ここから先は、それ以外にも漫画業界が音楽業界を参考に出来そうな例を見ていきましょう。
– 売り方の多様化
今まで多くのアーティストにとって、メジャーレーベルに所属するということは一つのゴール地点でした。メジャーレーベルとの契約には様々なメリットがありますが、中でも大規模なプロモーションによる新規ファンの獲得は最も大きなメリットと言えます。しかし近年、メジャーレーベルを離れ、自分たちの手でプロモーションから流通まで手掛けるアーティストもいます。既にコアなファンを獲得出来ているアーティストの場合、プロモーションの費用を抑えることでCD制作やライブ公演を行うのに必要な費用に予算を回すことができ、ファンにとってもメリットがある上にアーティスト側の取り分も増えます。またプロモーションに関しても、今はSNSやYouTubeなどネット上のサービスを利用することで比較的安価に行うことができ、上手くユーザー間での拡散効果を誘発することができれば大きな効果が期待できます。
漫画業界においても、作品を世に出す方法は大手出版社に作品を採用してもらうことだけではなくなっています。SNSに投稿した作品が注目を集め、ウェブメディア上で連載というパターンも、もう珍しくありません。
– アーティスト側の工夫
音楽業界ではこうした時代の変化を巧みに利用するアーティストも現れました。
第59回のグラミー賞で7部門ノミネート、その内3部門で受賞した「チャンス・ザ・ラッパー」は、自身の音源を一切有料販売していません。彼の主な収入源はグッズ販売や、Apple Musicなどのサービスへの自身の楽曲の選考独占配信権の提供契約です。自身の楽曲は全てプロモーションの一環で、実際はグッズ販売業者という見方すら出来そうですが、彼が今音楽業界で最も成功しているアーティストの一人であることは疑う余地もありません。
もちろんグッズが売れるのは、CDが売れなくなっているのに対しライブ公演などのコンサートの売り上げが伸びていることが影響しており、「音源の販売」と「ライブ公演」の2種類の形態が考えられる音楽業界と違って、漫画業界で同じような手法を取るのは難しいかもしれません。
ただ、キャラクターのグッズ販売や作品とコラボしたカフェをオープンするなど、漫画そのもの以外にも作品を利益につなげるチャンスは数多くあります。
技術が進歩し、時代が変わって消費者の行動が変わると、従来通りのやり方ではどうしても上手くいかなくなる時がきます。その時いかに変化に対応するかが、事業成功へのカギとなります。
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