2019.10.31 | UX

EPCOTというワードをご存知でしょうか?現在ではテーマパークや映画で知られているディズニー。その生みの親であるウォルト・ディズニーは晩年、理想的な都市を創る計画を考えていました。その計画がEPCOT(Experimental Prototype Community of Tomorrow)計画です。

未来の理想都市を目指したEPCOTはディズニーのUXをよく表していると思います。1965年に公表されたEPCOT計画はテーマパークではなく、実験的未来都市というひとつの共同体を創る構想だったので居住空間や商業施設、娯楽施設を含んだ実際に生活できる都市そのものでした。その都市構造はセンターハブという都市の中心から放射状に都市が広がっていく、すなわちハブ&スポーク構造になっています。流通業やモバイル、アプリケーションなどにも用いられるハブ&スポーク構造は、ディズニーのUXの根幹にあるものだと思います。まず世界各国のディズニーランドは作品に登場するお城を中心として、そこからスポークをのばすように各エリアが配置されています。またこれはハブ&スポークとは異なりますが、ディズニーランドのキャスト(スタッフ)やその他サービスの面であげられるUCD(User Centered Design)はユーザーを中心としてサービスをスポーク状に展開する、一種のハブ&スポーク構造と言えるかもしれません。何かを中心としてモノやコトを展開するこの構造は、中心のシステムが機能しなくなることによって全てに影響が及んでしまうという弱点を持っていますが、極めてシンプルな構造であると言えます。ディズニーランドではこの構造を使い、中心のシンボルを目印にすることによってパーク内のゲスト(お客さん)の効率的な流動性を確保しているのです。

またEPCOTでは未来のモビリティについても計画がありました。現在、実際にフロリダのディズニーランドでアトラクションにもなっているピープルムーバーや、排気ガスの出ないモノレールで移動手段を賄うというものです。EPCOT計画のマスタープランを見ると、モノレールは空港を始点として工業地帯を通過し、居住エリアや緑地帯、そしておそらく中流階級以上向けの低密度な住宅エリアを結ぶと記してあります。そしてピープルムーバーというのはいわば自動運転の移動手段で、自動運転に関しては今日実用化などで度々話題になっています。ピープルムーバーは1964年に開催されたニューヨーク万国博覧会においてフォードの提供のもとで自動運行交通システムとして出展され、後にアナハイムのディズニーランドへ移築されました。ちなみにこの時同時に出展し、アナハイムに移築されたアトラクションがイッツ・ア・スモールワールドでした。これらのモビリティは前述したハブ&スポーク構造におけるスポークの部分で、モノレールは中心にあるセンターハブから放射状に伸びる都市構造の、商業エリア、高密度の居住エリア、緑地帯と娯楽施設、低密度の居住エリアという4つのエリアを結ぶ公共交通機関となる構想でした。そしてこれらのモビリティはユーザーの視点でデザインされています。空港からホテルへ、そしてテーマパークへ行ったり、自宅から商業施設へ向かったり、様々な移動という行為に対して最善のメソッドが取れるようになっていると思います。例えばモノレールがホテルの中に位置している駅で止まったり、ピープルムーバーでテーマパークのエントランス前まで移動できることなどです。これもまたユーザー中心設計の一環であると言えます。

さて、モビリティというと現在東京ビッグサイトで開催されている東京モーターショーがニュースなどにも出ています。私も実際に足を運んでみましたが、電気自動車や次世代燃料を使った車に負けないくらい自動運転技術を搭載したコンセプトカーなどが出展されていました。スズキの「HANARE」やダイハツの「IcoIco」などのコンセプトカーは自動運転技術が搭載されることによって運転席が必要なくなり、車内に座席が向き合ったような形で配置されています。先ほどのピープルムーバーは構想の段階では半ば自動運転の電車のようなもので、イメージとしてはゆりかもめの運行間隔が短いものと言えます。しかし形態としては一つの車両の中で座席が向かい合っている、すなわち自動運転技術搭載車のコンセプトカーが電車のように連なっているような形をしています。運行が全自動となるので運転席がいらないという発想は現在の自動運転のコンセプトカーと同じ理念です。


このようにEPCOT計画の中には現在でも実現できていないモノやコトの発想がたくさんつまっています。夢と現実という面から、EPCOT計画は実際にはほとんど行われずウォルト・ディズニー・ワールドとして1971年にオープンしました。1982年にオープンしたEPCOT CenterはEPCOT計画の一部でもある最新の科学技術の展示を実現していますが、都市計画ではありません。科学技術を展示する、未来がテーマのエリアになってしまったのは、1966年のウォルト・ディズニーの死が大きく関係していると言えます。もし実際にこの計画が実現していたとしたら、私たちの現在の生活はより未来へ進んでいたのかもしれません。

ディズニーのUXをEPCOT計画から考察してみました。時にプロダクトデザイナーが特許切れの技術からアイデアを展開するように、実現しなかった過去の構想からUXのアプローチを探してみてもいいかもしれません。あなたの計画を、ルグランと一緒に実現しましょう。



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