2020.09.17 | イベント

今回で第6回目となる、ルグランモーニングセミナーは『組織・チームで取り組むUXデザイン』をテーマに9/11(金)に開催しました。

当日は、Tigerspike株式会社でデジタルプロダクトのUXデザインを手掛ける傍ら、芝浦工業大学の非常勤講師として教鞭も執る、UXデザイナーの川合 俊輔氏にご登壇いただきました。

川合さんが所属するTigerspikeは、デザインのノウハウとテクノロジーを合わせ、企業のプロダクト開発を支援している会社です。プロジェクトによっては2-3年かけて行うことが多いそうですが、Tigerspike側の人間が主導しつつも、最終的にはクライアント側でも自律的に動ける体制を作ることを目指して取り組んでいるとのこと。 

■デザイン思考を進める上での課題

UXデザインを手掛ける川合さんのもとには、様々な企業から「デザイン思考のアプローチで進めていたはずが、気づいたら従来の進め方に戻っていた」というような声が、よく届くそうです。どうすれば「デザイン思考」を正しく実践できるのかという話に入る前に、まずは一般的なデザイン思考のアプローチをご説明頂きました。

共感:リサーチをしながらユーザーのことを理解する

問題定義:ユーザー理解を深めた上で、どんな要望や課題に応えたらユーザーが喜んでくれるのかを探る

創造:複数の人を集めて多くのアイディアを出す

施策・検証:プロトタイプをつくり、検証を重ねる

しかし、UXデザインの現場では、デザイナーが中心となってプロジェクトが進んでしまい、その他の人たちが置いてきぼりになってしまったり、ユーザーを置き去りにして作りたいものを作ってしまったり、あるいは開発フェイズに入った途端に技術主導で話が進んでしまったり等々、「デザイン思考」を進める上で、様々な課題が出てくることがあるといいます。

■デザイン思考の入口と出口を考える

デザイン思考を進める上での課題は、主に、そのチームメンバー同士の共感不足(入口)と「ユーザー体験を議論する際の共通言語の不足」(出口)の二つに分けられるとのこと。

まず、デザイン思考の入口では、「ユーザーへの共感の前に、チーム内での共感」から始めることが非常に重要になる、という点ついてお話し頂きました。

■チーム内での共感

プロジェクトを始めるにあたって、特に、

1.ゴール

 ● 解決する課題を言葉や数字で定義する

 ● チームメンバー全員が暗記できるまで頭に叩き込む

2.成功要因

 ● 何をもって達成したといえるのかを明確に定義する

 ● プロジェクトが大成功した時にどのような状態になっていたいのかを言語化する

 ● 成功要因に対して可能な限り具体的なKPIを設定する

3.前提・仮説

 ● ユーザー・技術・戦略・コンテクストの観点から前提や仮説を整理する

4.仮説精度

 ● 前提や仮説の精度を検証する

  ○ 自社で検証済のもの

  ○ 他社で検証された結果があるもの

  ○ 未検証のもの

チーム内でゴールが明確に定義できていれば、プロジェクトの途中で方向性がブレたりせず、強固な軸を作ることができるとのこと。また、クライアントとの間でもゴールの共有をしておくことも重要で、可能であればワークショップなどに参加してもらうのも良いとのことでした。

また、仮説や前提条件の精度をきちんと検証することで、ユーザーリサーチやデータ分析をしなければいけないものが洗い出されるので、今後の調査方針が明確化され、無駄のない検証をすることができるとのこと。Google ベンチャーズのJake Knapp氏いわく「すべてのゴールの下に潜むのは危険な仮説である。その仮説が調査されないままであればあるほど、リスクは大きくなる」と。

何よりも、デザイン思考のプロセスに入る前にこれらの整理を行っておくことで、様々な観点を持った人たちの目線を合わせ、共通のゴールに向かってプロジェクトを進めることできるようになり、またプロジェクトを開始した後でも、いつでも原点に立ち戻るための指針になるといいます。

■ユーザー体験を議論する際の共通言語の不足 

続いて、デザイン思考の「出口」における問題について。

せっかくデザイン思考で進めて来たプロジェクトも、たとえば開発チームが実際に機能に落としていく段階で使う言葉が変わってしまうと、本来想定していたものとは違うプロダクトになってしまうことがあるといいます。これを回避するためにも、開発チームも含めた全ての関係者が「ユーザーストーリー」を共通言語として話をすることが重要とのことです。そうすることで、自然と「機能中心」の議論ではなく、「ユーザー中心」の議論をするという意識も生まれます。

例えば、シェア機能を入れたいといった場合、機能的な議論だと「シェアボタンをどこに置くのが良いのか」といった話になりがちですが、ユーザー中心で考えると「最新情報を獲得したユーザーは、いち早くそれをシェアしたいと考えるが、その背景にはフォロワーを増やしたいという動機があるので、そうした期待・要望を満たすにはどうするべきか?」といった議論になるので、実装する機能やアイディアも自ずとユーザー視点になっていくとのこと。

また、機能の繋がりではなく、ユーザーストーリーの繋がりを漫画のように可視化したり、ストーリーのロードマップを作成し、議論を行うこともあるそうです。

こうすることで、プロジェクトを進める中でユーザーストーリーを意識するようになり、チームとして、ユーザー体験を土台としたコミュニケーションを取ることができるようになるといいます。

デザイン思考でプロジェクトを進めるには、ユーザーの共感よりもまずはチームの共感から始め、関係者とユーザーストーリーという共通言語で会話するというのが何よりも大切である、ということが大変理解できたセミナーでした。

ルグラン・モーニングセミナーでは、今後も、様々な分野で活躍される方々をゲストにお迎えをし、皆様のビジネスに役立つセミナーを開催して参りますので、どうぞお楽しみに。



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