最近、マーケティングに関する話をしていると「ターゲティング」という言葉を耳にする機会が増えています。
アドテクノロジーの進化によって、マーケターが手にした新たな「果実」という見方もできますが、個人的には、デリカシーに欠ける、あまり使いたくない言葉だなぁ、とも感じています。
例えるなら「ミサイルの照準機能が高性能になった」とアピールする武器商人たちが、照準の先にいる人たちを「標的」としか見ていないのと同じように感じられるのが、その理由かもしれません。
「枠から人へ」とターゲティングの精度が向上したといった表現もされますが、これも、戦闘員を危険にさらして都市全体を絨毯爆撃する代わりに、「ターゲット」となる人や建物をピンポイントで狙えるようになった、という話に似ています。ついで言うと「撃ち手」がいい加減だと、無関係なターゲットを誤爆してしまうのも、ネット上に溢れる、的外れなリターゲティング広告の氾濫に相通ずるものを感じます。
両者に共通するのは、あくまでも「撃ち手」の都合による改善や効率化が最優先であり、そこに「ターゲット(=撃たれる側)」の問題を解決しようという動機が存在しないという点ではないでしょうか。
マーケターも、一方では、生活者・消費者であり、そこで自分が「標的」として扱われたいとは思わないでしょう。私たちが求めているのは、必要な情報・商品・機能やサービスが、本当に必要なタイミングや場面で提供されること、のはずです。
こうしたことを考えるのがユーザーエクスペリエンスデザイン(以下、UXデザイン)の果たすべき役割です。
「初回訪問者にはメルマガ登録を誘導するバナーを出す」とか「利用者の推定所在地に合わせて近隣店舗の情報を出す」といったリコメンドは、既に多くのウェブサイトやアプリでも導入されています。ただ、これらは、予め設定したルールに基づいて、自動的に表示する情報やコンテンツを変えているという点で、まだまだ「条件反射」に近い対応です。
理想的なUXの設計・提供には、一人ひとりのニーズや目的・意図を、「コンテクスト(=それらが求められている経緯や背景)」も含めて理解することが不可欠です。100人の利用者や来訪者がいれば、そこには、100通りのシナリオが存在することになりますが、こうなると、もはやルールベースでの条件反射的なシステムだけでは対応できません。
そこで注目されるのがデータドリブンなUXデザインです。
過去の閲覧・行動履歴を知ることは大切ですが、私たちの行動は、必ずしも過去に行って来た選択の延長線上にある訳ではありません。時々のトレンドやニュース、知人・友人の発言や行動、さらにはその日の天気など、様々な要素が絡み合って、日々、新たな選択が行われていきます。
こうした様々な変数を動的に収集・解析して、一人ひとりのコンテクストを理解し、パーソナライズされたオファーを呈示していくことは、もちろん手作業では不可能です。しかし、収集・解析できるデータ量の増大と、技術の進展によって、UXデザインは新たな時代に向かおうとしています。
そこで、今後、データドリブンなUXデザインを実現していくために、重要になると思われる要素を、以下、3点にまとめてみたいと思います。
1. UXデザインの目的が課題の解決である点は変わらない
データやシステムの活用はあくまでも手段であり、UXデザインの目的は、個々のユーザーが抱える課題の解決であるという原理原則が変わることはありません。いくら優れた技術やツールがあるからといって、それらを起点に戦略やオファーを考えるのは本末転倒です。
2. プログラマティックではなくヒューマナイズなシナリオ設計
「〇〇を見た人にはXXを」といった「プログラマティック」なルールだけでは、日々変化する私たちの気分や思考に合わせたオファーを呈示することは難しいでしょう。一人ひとりの思考や感情に寄り添い「ヒューマナイズ」されたシナリオの設計が無ければ、どんなに優れた技術を導入しても、課題の解決につながるオファーを呈示することはできません。
3. UXデザインはエンジニアとの二人三脚が不可欠に
データドリブンなUXデザインを実現するためには、様々なデータを収集・蓄積し、それらを有機的に連携させるためのシステムの設計・構築が必要です。今後はAIの導入も有効な手段になるでしょう。そのためには、UXデザイナーとエンジニアとの協業も不可欠になります。
来たるべき2018年。ルグランは「データドリブンなUXデザイン」の実現を旗印に、今後も、様々なプロジェクトに挑戦して参ります。
みなさま、どうぞ、良いお年をお迎え下さい。