先日、米国のアパレルブランド、ラルフローレンが、製品タグに「デジタル・プロダクト・アイデンティー」を付け、商品購入者に情報を提供すると発表。スマートフォーンでタグを読み込むと購入する商品が本物であるかどうか、生産工程や原材料等に関する情報、また、スタイリングのヒントを教えてくれるとのこと。
画像1: ラルフローレンが独自に開発したタグ「デジタル・プロダクト・アイデンティー」(米国Ralph Lauren公式サイトから)
デジタル化が遅れていると言われているファッション業界で、老舗のラルフローレンが最新のテクノロジーを導入。2017年に新CEOに変わってから、マーケティング予算を増やし、デジタルを中心とした新たな施策を次々に打ち出し、増益増収傾向にあることは、元祖、ラルフローレンファンとしては嬉しい驚きでした。
ラルフローレンで働くということ
大学時代、ラルフローレンは多くの学生にとって憧れのブランドでした。裕福でかつ、スタイルがある人達を象徴するようなアイテムを次々に出し、当時私が過ごしたサンフランシスコのショップは、一歩足を踏み入れると、まるでラルフローレンの家に招かれたような独特な雰囲気があり、他の高級ブランドとは別格の存在でした。
私の留学時代、アメリカの大学では、留学生に実社会で経験する機会を与えるために1年という期限付きで、特別なビザを発行していました。そこで、私は門前払い覚悟で、憧れのラルフローレンのショップに履歴書を持って突入。かなりダサイ感じだった私がなぜか採用されてしまいました。同じ日に、上司となる人がショップで働くためのコーデを考えてくれて、しかも、その中から好きなアイテムを無料で下さり、想定外の結果に、ただただ驚きました。それと同時にスタイリッシュなアメリカ人の中で浮かずに働くことができるのか、という不安も強く感じていました。
Brand PurposeとUXが実行される現場
ラルフローレンでの最初の仕事は、「Ralph Lauren Philosophy」というビデオを見ることから始まりました。ビデオには、ラルフローレンのBrand Purpose「TO INSPIRE THE DREAM OF A BETTER LIFE THROUGH AUTHENTICITY AND TIMELESS STYLE」が美しく表現されていました。ネットが存在しなかった当時、ブランドの価値を伝えるためには、アルバイトも含め、スタッフ一人一人がRalph Lauren Philosophyを正しく理解し、それを基に立ち振る舞うことを求められていました。
また、ショップではカスタマーファーストが徹底していました。お客様がショップにいる限り、どんな遅くなってもクローズせず、セールスパーソンは最後まで丁寧に接客。また、夕方からはワインやチーズをお客様にオファー。最良のUXを提供するために常に様々な工夫がされていました。これにより、多くのお客様は、カジュアルウェアからベッドリネンまでラルフローレンで取り揃えるようになっていきました。
さらに、クリスマスには、ラルフローレン氏から従業員へメッセージと共に、バスケット一杯のスイーツが最高にオシャレな形で届き、ラルフローレンで働くことに喜びと誇りを実感。ブランドに関わる人達全員が最良のUXが実感できる、なんとも素敵な環境でした。
不況からの脱却
そんなラルフローレンも小売市場が落ち込む中、売上の減少が続き、私の思い出のサンフランシスコショップも2016年に閉店。Macy’sでは、ラルフローレンの大セールが行われ、アナリストからは、進化している小売業に対する対応の遅れを指摘され、ブランドの復活はないのではと思わざるを得ない状況でした。
ところが、指摘されてきた課題を洗い出し、改善策を実行、わずか数年で増益増収を実現してしまったのです。
ラルフローレンの公式サイトには、昔と変わらないBrand Purposeが掲げられ、パッションを持ち、リスクと取ってそれを実現。社会への貢献と持続可能な未来を目指すと書かれています。このBrand Purpose、私がショップで経験した徹底的なカスタマーファースト主義、そして、ラルフローレン氏のブランドに対する強い思いがブランド復活の原動力になったのではないでしょうか?
画像2: ダイバシティーを意識したクリエイティブが増えているようです(米国Ralph Lauren Holiday Campaignから)
小売市場に於ける消費者のニーズはここ数年で大きく変わっています。変化の中で生き残るためには、これまでの方法を見直し、変えていく必要があります。
一方で、方法を変えること自体は優秀なエージェンシーが回りにいれば実現可能。ラルフローレンもGen Z やmillennialsをターゲットにした施策や、媒体、モデルを選択し、効奏しているようです。(尚、ラルフローレンは、復活のプロセスの中でこれまで使っていた代理店14社を4社にまで絞りこんたどのこと。ブランドを理解し、かつ、最新のテクノロジーと消費者の動向を理解している4社を選択できたと言えるかもしれません。)
一方で、何を実現したいのか、自分達はなぜ存在しているのかが不明なブランドは、いくら今風な方法を活用しても、メッセージが不明なため消費者の琴線に触れることはできず、残念ながら不況からの復活はないでしょう。
憧れだったブランド、ラルフローレン。ぶれないBrand PurposeとUXで、ますます強くなっていきそうです。