2019.09.10 | UX

先日、タクシーに乗っていたら、後部座席前のサイネージから、

 「ペルソナで、わたしのことわかりますか?」

 というメッセージの広告が流れてきました。

 マーケティングツールの広告って、どれも「〇〇はダメ!」と何かをバッサリ切って捨てるようなメッセージばっかりになっちゃうのはなぜなんだ?(だいたい、いまここでこの広告を流している時点で、俺のこと分かってないじゃん。)

 などと、心の中でつぶやきつつも、以前、UXデザインのワークショップで、参加者の方から、

何十万、何百万という数のユーザーや来訪者がいるのに、『代表的なペルソナ』を考えることに、どういう意味があるのでしょうか?

と質問をされたことを思い出し、こういう疑問に丁寧に答えるより「面倒なことは考えず、ツールやシステムに丸投げしちゃいましょう!」という誘い文句の方が、簡単で分かりやすいから、こういう広告が増えるのかなぁ、などとも思ったりもして。。。

確かに、ウェブサイトやアプリなどを利用する人の過去の行動履歴や属性に関するデータを収集することは容易になっています。AIなども活用しながら、収集したデータを分析することで、一人ひとりの興味や関心や、置かれている状況を予測・分析することも、それなりの精度でできるようになっています。(いま巷を騒がせている「内定辞退の確率予測」なども、「データとAIを使って、できることをやってみたらこうなった」みたいな話なのかもしれません。)

さらに、興味や関心、あるいは状況に関する分析結果にもとづいて、ウェブサイトやアプリの利用者、あるいはメルマガの購読者一人ひとりに、お薦めの情報や商品などを、リアルタイムで表示させることも可能になっており、そうした機能や仕組は、MA(マーケティングオートメーション)とも呼ばれたりします。

こうしたMAのツールを使って、一人ひとりに合わせた「お・も・て・な・し」を実現するためには、

一人ひとりの好みや状況を踏まえて、どういう情報や商品・サービスを呈示するのかというシナリオ

をしっかりと作っておくことが不可欠なのですが、ここ数年、こうしたツールやシステムの普及に伴い、私たちのところには、

MAツールの導入を決めたものの、「どういう状況の人に対して、どういう情報あるいは商品を呈示すれば、最良のUXやCXが実現できるか」が分からず、導入したツールが活かせない状態になってしまっている

というご相談も増えています。その背景には、シナリオ作りの重要性が理解されないまま、ツールの導入を決めてしまった(あるいは上層部や本社の意向で導入が決まってしまった)といったケースもある一方で、いざシナリオを考えようとしても、数パターン程度しか思いつかない、といったケースも少なくありません。

「やりたいことがその程度だったら、わざわざツールを入れなくても良かったのでは?」という話になる訳ですが、多くの場合、やりたいことが無いというよりは、

 そもそも、自動化(オートメーション)を必要とするような施策が手動でも実施されていない

ことが多いと感じています。

5万人のメルマガ購読者に対して、5万通りのパーソナライズされたメールを自動的に生成・配信できるツールを入れてみたものの、これまでは、全てのメルマガ購読者に同じメールを一斉送信してきたので、いきなりシナリオって言われてもねぇ 

といった具合です。

そういう時に役に立つのが「ペルソナ」です。たとえば、過去の購入者のデータを調べてみたら、

・男性客よりも女性客の方が、1回あたりの平均購入金額が高い

・購入した中身を見ていくと、どうやら自分のモノだけでなく、夫のモノも買っているらしい

・ただ配偶者のモノは、価格重視で安いものを選んでいるようだ

といったことが判明したとしましょう。となると、それまで全員一律で出していたメールのうち、

・配偶者がいる(可能性が高い)30歳以上の女性顧客で、

・過去にも配偶者のモノと思われる男性用商品を購入しているが、

・価格には敏感で節約志向の高さが伺える人

といった条件に当てはまる人(これが最初の「ペルソナ」になります)を抽出した上で、その半分の人に、男性向け商品のセール情報に関するメールを送ってみて、残りの半分の人と比べて、メールの開封率や実際に購入につながった割合を比較する、といったことなら、やってみる価値はありそうだし、手動でもできそうですよね?

この場合、メールの配信を通じて、「そうそう、それが欲しかったのよ」という快適な購入体験(UX)を提供することで、購入率や売上アップにつなげようとしている訳ですが、そのためにまず必要なことは、「どのような人のニーズや課題に応えようとするのか」を考えることであり、それを考える際には、ペルソナを作ってみることが役に立つ、という訳です。

ちなみに、このメールの配信結果を分析していくと、

・同じ女性でも36歳〜42歳の人の開封率が高い

・木曜か金曜日の午後に送ったメールは特に良く読まれている

・過去に4回以上の購入履歴がある人は購入確率が高い

・男性用の下着や靴下にはまとめ買いの需要が高い

 といったことが見えてきたりするかもしれません。そうなると、年齢や過去の購入回数や購入した商品によって、メルマガの配信先や、お薦めする商品のバリエーションが増えていきそうですよね?そうなると、いよいよ自動化(オートメーション)ツールの出番という訳です。

もうお分かりですね?

ペルソナの数が、シナリオのバリエーション数を決める訳ではない

のです。

自動化を必要とするくらい細分化していくシナリオを考える入口で、そもそも「誰(どんな人)のニーズや課題に応えようとするのか?」を考えるための道具、それがペルソナだと私たちは考えています。

では、具体的に、ペルソナって、どうやって考えていくの?という問題については、この続編として、また次回、事例も交えながらお話を進めたいと思います。



Back to Blog Top