2020.05.20 | コラム

首都圏をはじめとする39県では非常事態宣言が解除され、東京など残る8つの都道府県についても、宣言の解除が視野に入り、百貨店や飲食店なども、徐々に営業を再開し始めています。

(asiatime.com より)

こうした動きを見据えて「緊急事態宣言解除後の社会はこうなる」という予測や「ポスト/ウィズコロナ時代のビジネス戦略」といったセミナーの広告を目にすることも多くなりました。こういうテーマでセミナーを開けば、たくさん集客できそうだなぁ、などと邪な考えも頭をよぎりますが、いま地球上に生きている人類が経験したことのないパンデミックが、これから、どういう経緯を辿って収束に向かうのか、その過程で、人々の社会・経済活動がどう変わるのかを予測することなど、本当にできるのでしょうか?

もし、本当に予測出来ていると思うなら、人には教えず、こっそり動けば世界を制覇する千載一遇のチャンスになる訳ですが。。。(苦笑) 

■いま目の前で起きている変化がそのままコロナ時代の「ニューノーマル」になる?

最近、良く目にする「これからの社会・経済像」には、このようなものが多いように感じています。 

・リモートワークやビデオ会議が当たり前になる。

・学校や塾の授業のオンライン化が急速に進展する。

・買い物はリアル店舗じゃなくてネット通販で。

・外食も敬遠され、みなデリバリーを利用するようになる。

・飛行機やタクシーに乗ならくなる。

・本当に必要なものだけを買うようになる、などなど。 

確かに、緊急事態宣言が発令され、「人と人との接触をできるだけ減らす」ことを求められた結果、こうした動きは加速しました。あまりにも短期間で大きな変化が起きたことから、緊急事態宣言が解除されても、こうした流れは続くはずだ、という予測・予想には一定の説得力もあるからこそ、「オンライン化に対応できない人も企業も生き残れないぞ!」と危機感を煽る記事やセミナーにも関心が集まるのでしょう。 

ただ、こうした予測・予想の背景には「人々は、今回のコロナ騒動で学んだことを忘れずに、これらも行動を変えていくはずだ」という前提があるように思いますが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉もあるように、コロナをきっかけに本当に人々が行動を変えるのかどうかについては、少し疑ってかかる必要もあるように思います。

■液状化で話題になった浦安で売られる1億円の一戸建て住宅

東日本大震災の時、埋め立てによって開発された千葉県浦安市では、大規模な液状化が発生し、信号や標識が倒れたり、一戸建て住宅が傾いてしまったり、というニュースを目にした方も多いのではないかと思います。 

(浦安市資料より)

実は、私も震災当時、浦安市のマンションに住んでいて、震災の1年後に、転居に伴い、マンションを売却することにしたのですが、当時、不動産業者からは、次のようなことを言われました。

・浦安の液状化リスクが顕在化してしまい、震災から1年経っても、浦安の外にいる人からの引き合いはほぼゼロ

・首都直下地震のリスクもあり、今後も浦安の物件が積極的に買われるとは考えにくい

・マンションは、浦安市内での転居需要を根気よく待てば、売れる可能性はあるが、液状化リスクのある一戸建ては絶望的で、今後の分譲計画も中止になるのではないか

実際、売りに出してから、買い手が着くまでには1年を要し、買ってくれた人は、不動産業者の予想通り、浦安市内で、広めのマンションに転居したいと考えている人でした。

 ところが、昨年、久しぶりに浦安を訪れてみると、驚いたことに、一戸建ての住宅が立ち並んでおり、その中には、1億円近い値段で売られている住宅も多数ありました。もちろん、東日本大震災の教訓を踏まえ、相応の地盤対策は行われているのでしょうが、とはいえ、大地震のリスクも液状化のリスクも消えた訳ではないのに、人々は、また埋立地の一戸建てを買い始めている訳です。

 実際、浦安市の土地価格相場の推移を見てみると、下図の通り、2013年を底に上昇に転じ、その後は、ほぼ右肩上がりで上昇していたことが分かります。(そして、私は「底値」でマンションを売ってしまったことも判明しました。トホホ。)

<浦安市の不土地価格相場>

(uchinokachi.com より) 

あれほどの大地震や液状化を経験していても、2年も経つと、人々はまたそこに土地を買い始める訳で「液状化リスクのある埋立地には家を建てない」という震災直後の常識は、「ニューノーマル」にはならなかったと言えそうです。 

■同時多発テロのあと、もう飛行機での旅はできないと言われたけれど

2001年にアメリカで同時多発テロが起きた後、多くの人が、飛行機での旅を控えるようになり、大手の航空会社も次々に経営破綻しました。しかし、下図を見ると、世界の航空旅客数は、既に2003年には同時多発テロ前とほぼ同じ水準まで回復し、以後は急速なペースで成長を続けてきました。(これが、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を招く一因にもなってしまう訳ですが。。。)

<世界の航空旅客数の推移>

(世界銀行のデータより)

テロの脅威が消えた訳でもなく、空港のセキュリティも大幅に強化され、旅行者は以前よりも多くの不便を強いられるようになりましたが、2年も経つと、人々はまた何も無かったかのように積極的に飛行機に乗り始めた訳です。

■私たち日本人は、本当にテレワークを続けるの?

新型コロナウィルスの感染拡大をきっかけに、特に東京などの大都市圏では、テレワークが一気に進んだと言われています。このため、緊急事態宣言が解除されても、今後の日本ではテレワークが働き方のニューノーマルになる、といった見方も出ています。

ただ、東京都が昨年行った調査によると、テレワークを導入していると回答した企業は全体の1/4程度に留まっており、テレワークを前提とした業務フローや職務分担・評価制度が確立しているとは言いがたい状況のように思います。

東京都におけるテレワークの導入状況

(東京都: 令和2年3月 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク) 結果報告書より)

つまり、緊急事態宣言発令後に増えたと言われるテレワークは、ある意味、「半強制的な自宅待機措置」に近いものであった可能性も高いのではないでしょうか?

また、仮にテレワークに対応した業務フローが構築できたとしても、特に東京などの大都市圏における住宅事情を考えると、テレワークがニューノーマルになるのは難しいかもしれません。

実際、都心に通勤している人が多いと思われる東京23区・横浜市・川崎市・さいたま市・千葉市の共同住宅の部屋数や広さを調べてみると、平均的な部屋数(リビングを含む)は3部屋あるか無いかで、一人が使える居住スペースの広さは11畳(17〜18㎡)程度となっており、特に家族のいる人が、自宅で、恒常的に仕事をするのは厳しい住宅環境のようです。

東京など大都市圏の住宅事情

(総務省統計局 )

緊急事態宣言が解除された県では、既に、通勤電車や駅が混雑し始めたという報道もありますが、日本の場合、「家で仕事を続けるのは厳しい」という理由で、感染のリスクを感じながらも、オフィスで仕事をせざるを得ない人も多いのではないでしょうか。

しばらくは、感染リスクと隣り合わせの生活が続くことは確かですが、一方で、こうしたデータを見ていくと、新型コロナウィルスのワクチンや治療薬が開発・普及する頃には、私たちの生活や行動も、コロナ前と変わらない形に戻っている可能性もあるように思います。

いずれ、未経験・未体験の世界的なパンデミックですから、今後を予測することは容易ではありませんが、目の前で起きていることが、本当にこれからも続くのかどうかも、慎重に見極めていく必要はありそうです。



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