その際、題材として、羽田空港の国際線ターミナルを取り上げ、これから2020年のオリンピックに向けて、日本を訪れる外国人旅行者へのおもてなしは充分にできているのか、について考えてみました。
先日、出張で関西国際空港(以下「関空」)を利用する機会があったので、今回は、関空を題材に、やはり外国人旅行者の視点から、関空のUXについて考えてみたいと思います。
まず最初に工夫の跡が感じられたのが、空港内にある出発便の案内です。
<出発便の案内ディスプレイ>
ご覧の通り、関西空港ではディスプレイを4つ並べ、14:30~18:30まで4時間分の予定を表示しているため、出発便のリストが、ほぼ固定された状態で表示されます。みなさんは、なぜこれが、UX的に優れているか、おわかりになるでしょうか?
実は、羽田の国際線ターミナルに行くと、通常、ディスプレイが1つしか配置されていないので、多くの便の情報を表示するために、便名のリストが上から下に流れていきます。途中で言語の表示も定期的に切り替わるので、自分の搭乗する便を見つけるのも一苦労ですし、流れていくリストを見ながら、自分の搭乗便の便のチェックインカウンターがどこかを確認したりするのは、さらに大変です。
また、ターミナルビル内の案内を見ても、関空では、外国人旅行者のことを考えたデザインが施されています。
<関空の案内表示>
これは4Fの下りエスカレータ乗り場に立った時に見える案内表示ですが、これを見れば、3Fは買い物や食事ができるエリアであることが一目飄然です。
これに対して、羽田の国際線ターミナルでは、下の写真にある通り、レストラン街の呼称である「江戸小路」がそのままローマ字で表記されているため、ほとんどの外国人旅行者には、エスカレータを登った先に何があるのかを理解することはできないでしょう。(実際には、このエスカレータを登ったところにある右手の壁側に、英語で「SHOPS & RESTAURANTS」と書かれているのですが、残念ながら、階下にいるとほとんど見えないのです。)
<羽田の案内表示>
また、今回、関空を訪れてみて興味深かったのは、関空では『旺盛な商売人魂』もUXの改善に一役買っている場面をしばしば目にしたという点です。
それが最も顕著に表れているのは関西空港駅です。
羽田に関するブログでは、日本や東京の鉄道事情に不案内な外国人旅行者に対して、鉄道に関する情報の提供が不充分である点を指摘しましたが、関空の場合、JRと南海が、それぞれ券売機の上のスペースを使って、京都・奈良・大阪など周辺の観光地に行くには自社の鉄道が便利であるというアピール合戦を大々的に繰り広げています。
<関西空港駅>
この結果、英語が読める人であれば、JR・南海それぞれに乗ると、どこに、いくらで、またどのくらいの時間で行けるのかが分かるようになっています。また、両線とも、券売機の横には、大きな有人カウンターも設けて、券売機を使うのが難しい外国人旅行客を待ち構えています。
また、保安検査場の手間には、免税店の看板が大きく出ていますが、看板の下には、”After departure passport control”と書かれています。細かいことですが、 保安検査・出国審査を終えてからも免税店で買い物ができるのかを知りたい、という旅行者の心理を適確におさえた情報の提供ができています。
もちろん、これはUXという点だけでなく、できるだけ空港でお金を落としてもらうという観点からも有効なコミュニケーションだと思います。
<免税店の案内看板>
ところで、関空にはアプリもありましたので、こちらもちょっと使ってみました。
搭乗便を登録しておくと、搭乗時刻までの残り時間が表示されたり、また空港から近隣主要都市までの所要時間や費用などが明示されたりするあたりは、空港アプリとしての基本的な機能・情報は、それなりに押さえられているという印象です。
<関空アプリの画面>
一方、店舗やレストランの検索について、誰でも行ける「一般エリア」と、搭乗者しか入れない保安検査場以降の「制限エリア」に分けて検索や表示がされるのは良いのですが、条件を入力して検索ボタンを押すと、肝心の検索結果は スクロールしないと見えない位置にしか表示されません。
画面の上部には、入力したはずの検索条件がリセットされた状態で表示されるので、「該当する検索結果が無かったのかな」という印象を与えてしまいます。また、地図の表示も非常に小さく、現在地との関係なども分からないので、お目当ての店までの道順や、おおよその距離や所要時間などは分かりません。
<関空アプリでの店舗検索画面>
また、言語の選択は日本語と英語しかなく、翻訳された英語も、本当にネイティブチェックが行われたのか、かなり怪しい表記も随所に見られます。
総合的には、成田よりもマシな出来映えではありますが、仁川(韓国)・チャンギ(シンガポール)・ヒースロー(イギリス)など、海外の主要な国際空港のアプリと比べると、その差は大きく、2020年に向けて、本当の「おもてなし」を実現するには、まだまだ改善の余地はありそうです。