UXデザインをする上で、とても大切なことは、自分たちが提供する製品やサービスあるいはコンテンツを届けたいと思う相手、つまり、ターゲットとなるユーザーや顧客が抱えるニーズや課題、不安や不満などを正しく理解することです。
UXデザインの世界では、これを”empathy(=感情移入を伴うような深い共感といったニュアンス)”と呼んだりします。 実際、製品やサービスを設計・デザインする企業(で働く人達)が、ユーザーや顧客のことを全く考えていない、ということは無いでしょう。むしろ、殆どの人達は「自分達は常にユーザーや顧客のことを考えて仕事をしている」と思っているでしょうし、実際、そういうスタンスで仕事をされているのだと思います。
それなのに、商品やサービスユーザー・顧客の立場になると、「もっと自分たちのことを考えてくれたら良いのに…」という不満を感じることが少なくありません。
どうして、そういうことが起きてしまうのでしょうか。
その大きな原因の一つに「自分は顧客やユーザーの気持ちを代弁できるという誤解」があると思います。いくら顧客やユーザーのことを「考えているつもり」でも、その理解が間違っていれば、誰のニーズや課題にも応えられない製品やサービスが産み出されてしまいます。
かくいう私も、最近、自分の見方が、世の中の多くの人たちの見方とズレていることを感じたことがありました。そのきっかけとなったのが、この記事です。
『麒麟がくる』は失速する?~戦国大河なのに苦戦する5つの理由
これは次世代メディア研究所の代表で、データにもとづくテレビ番組の視聴動向などの分析をされている鈴木祐司さんが書かれた記事ですが、最初、タイトルを見た時には、正直、かなりの違和感を感じました。
というのも、私自身、「戦国大河」は結構好きで、しかも、いつもなら、主人公の「幼少期」の物語から始まるのが、「麒麟がくる」は、初回から戦国武将の駆引きにまつわる物語からスタートしたこともあり、「今年の大河は面白い!さぞや視聴率も上がるだろう。」と思っていました。
しかし、鈴木さんの分析によると、実際には回を追うごとに視聴者は離れており、
・男性が全く減っていないのに比べ、若年女性には全く不人気だ。
・大河ドラマの命運を握る高齢女性に支持されていない
といったことが起きていることが分かりました。
<年齢、性別、未婚・既婚で比較した『麒麟がくる』序盤の個人視聴率>
(FRIDAY DIGITALより)
つまり、もし「おじさん」である私が、自分の感覚だけを信じてストーリーを作ってしまうと、女性の視聴者を惹きつけるような物語にはならない可能性が高くなる、ということです。
一方で、製品やサービスの設計・デザインの現場に、常に、ユーザーや顧客の気持ちを代弁できる人がいるとは限りません。例えば、海外から日本を訪れる観光客を対象にしたサービスを企画・提供する現場に、欧米やアジアなど海外からスタッフを集められるというケースは稀だと思います。しかし、だからといって、良いサービスが作れない訳ではありません。
そこで重要な役割を果たすのは「ユーザーや顧客のニーズや課題をできるだけ正確に把握するための調査」です。
本ブログ『ペルソナの作り方は知っておこう。全部自分で作らなくても良いけど。』でもご紹介をしましたが、弊社では、現在、奈良県にある吉野ビジターズビューローさんと一緒に、国内外の旅行者に吉野の魅力を紹介する多言語ウェブサイトを制作するプロジェクトを進めています。
情報提供の相手は、日本人および欧米やアジアの旅行者になりますが、制作の現場に、様々な国や地域のスタッフがいる訳ではありません。そこで、本プロジェクトを始めるにあたり、まずは、日本および海外の国や地域の人たちを対象に、インターネットによるアンケート調査を実施しました。たとえば、
・日本に行くとしたらどこに行きたいか?
・旅行先・訪問先を選ぶ際に重視することは何か?
・吉野を訪れるとしたら、どのような楽しみ方をしてみたいか?等々
といった質問への回答から、アメリカ人の中には「京都や浅草・富士山などの定番ではない観光地に行ってみたいと考える人」が一定数いることや、フランス人には「歴史や文化を感じられる場所に高い関心を示す人」が多いことなどが分かってきました。
こうした調査結果を、ウェブサイトのデザインやコンテンツに反映させることで、「欧米やアジアから日本への旅行を検討・計画する人」のニーズや課題にも、できるだけ応えられるウェブサイト作りを実現しようとしています。
製品やサービスの企画・設計・デザインにあたり、顧客やユーザーのニーズや課題を正しく理解できているだろうか?そのためには何が必要なのだろうか?
そんな疑問が芽生えてきた方は、ぜひ一度、ルグランに相談してみて下さい。