2016.02.25 | UX
先日、『ユーザーエクスペリエンス(UX)脳の鍛え方』というコラムで、羽田空港を題材に、普段から自社のウェブやアプリ、あるいはサービスの使い勝手を、ユーザーの視点に立って考えてみるという能力を鍛えておくことの大切さについて書きました。

その際にも書きましたが、『UX脳トレ』の題材は、みなさんの意識の持ち方次第で、日常生活のあらゆるところに転がっています。そこで、今回はスポーツクラブでのある体験から、UXについて考えてみたいと思います。

筆者が通っているスポーツクラブでは、受付を済ませると、会員証と引換にロッカーの扉に差し込むカードが渡されます。(このカードを差し込まないと、ロッカーのカギがかけられないので、一人で複数のロッカーを使うことはできないようになっています。)

ところが、先日、ロッカールームで困っている様子の人がいたので話を聞いてみると、『自分のロッカーが誰かに使われている』とのこと。このスポーツクラブでは、別途契約をしない限り、自分専用のロッカーというのは無いので、おかしいなと思い、改めて、この方が手に持っていたカードを見て納得。

<受付で渡されるカードにも番号が>

受付で渡されたカードには番号が振られているため、この方は、同じ番号のロッカーを使わなければならない、と勘違いしたのです。実際には、このスポーツクラブの場合、カードの番号とロッカーの番号の間には何の関係もないので、みな、空いているロッカーを見つけてカードを差し込んで使っています。

しかし、ゴルフ場などの施設では、受付でロッカー番号が書かれたカードやキーを渡されることも多く、カードに番号が書かれていたら、ロッカーの番号と結びつけて考えても不思議ではありません。

このように、ある環境や場面において、人々が自然に『これはこういう意味なのだろう』と考えることを、『アフォーダンス』と言います。ドアの取っ手に関する話は、『アフォーダンス』を考える身近な例として、よく取り上げられていますので、聞いたことがあるかもしれません。

<ドアの取っ手のアフォーダンス>

このドアは押して開ける構造になっているのですが、おそらく『引いて開ける (ために取っ手が付いている)』と考える人が多いので、仕方なく、後から 【PUSH】というシールを貼ったのでしょう。

これはドアに限った話ではなく、ウェブサイトやモバイルアプリなどでも同じです。『アフォーダンス』を無視したデザインや設計は、人々に戸惑いやフラストレーションを与えることになり、最終的には、離脱者を増やしてしまうリスクを高めてしまいます。

快適なユーザーエクスペリエンスを考える基本は、”Don’t make me think.”

つまり、考えなくとも直感的に分かる作りやデザインになっていることが重要であり、そのためには、日頃から、利用者の立場に立って考える『UX脳』を鍛えておくことが大切なのです。

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2016.02.18 | UX
UXランキング(航空会社編)の個別ランキング解説。日本航空(JAL)に続いて3位に入ったのは全日空(ANA)のウェブサイトでした。

ANAのウェブサイトも、昨年5月にリニューアルされましたが、正直、最近リニューアルされたサイト、とは感じにくい古さが残っているという印象を受けます。ウェブサイトの上部には、”Inspiration of Japan”というタグラインも記載されていますが、サイト全体を見ても、このタグラインを体現するようなブランドメッセージが表現されているとは言いがたい状況です。

<ANA ウェブサイトのトップページ(PC・モバイル)>

フライトの検索結果のページは、前回ご紹介したJALに比べると、情報も見やすく、「最安値」で利用するための情報も、JALに比べるとわかりやすく表示されています。

ただ、PCサイトの上部に適用料金の条件が記載されていますが(=赤い点線で囲った部分)、「予約変更」「払い戻し」といった項目と離れて、太線で囲まれた中に「可(手数料あり)」と書かれているため、これが何を指しているのか非常にわかりづらいレイアウトになっています。

<フライトの検索結果(PC・モバイル)>

また、モバイルサイトでは、最安値で利用できる往路と復路の組合せを一覧から確認・選択できるようになっているのに対し、PC サイトでは、検索された往路・復路それぞれの日程中で、最安値のフライトが表示される仕様になっているというバラツキが見られます。

第1位のジェットスタージャパンや、JALの解説の中で紹介したキャセイパシフィック航空などの例をみても、最安値で利用できる日程の選択を容易にする仕様になっているのは、今後、さらに激化が予想されるLCCとの運賃競争も意識しているためと考えられます。そういう意味では、ANAについても、フライトの選択画面については、モバイルサイトの仕様をPCでも採用した方が良いように思われます。

なお、国内線の予約について、2か月より先の日付を選ぶと「エラーメッセージ」 が出てきます。実際には、2ヶ月より先の予約は、料金体系が変わるため、通常の予約プロセスでは対応できないということなのですが、ここで「エラー」を出してしまうと、予約はできないと諦めてしまうユーザーも少なからず出てくることが懸念されます。

<2 ヶ月より先の予約に関する案内>

エラーメッセージの下を見ると「2ヶ月より先のご予約に関する詳細はこちら」 というリンクがあり、PCサイトでは、2ヶ月より先の予約に適用される「旅割」プランの案内が出て来ます。

一方、モバイルサイトでは、レイアウトが崩れ気味のテキストによる案内のみとなっており、さらに、これを読んでも、結局、2か月より先の予約はできるのか、できるとしたら、どういう条件やプランになるのかも、今ひとつわかりません。

春休みやゴールデンウィーク期間中の予約をしておきたいと考えるユーザーも多い中、このモバイルサイトでの中途半端な対応が、特にJALに比べてモバイル対応という点で、評価を下げてしまった一因となっています。

一方、モバイルアプリについては、ANAは1つのアプリに機能を集約しており、このアプリを使えば、Apple Watchと連携した出発案内などの機能も利用できたり、また、アプリからモバイルサイトに遷移するコンテンツなどもメニューから確認できたりと、JALに比べて分かりやすい作り・構成になっている点は評価に値します。

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2016.02.12 | UX
UX ランキング(航空会社編)の個別ランキング解説。1位のジェットスタージャパンに続いて、2位にランクインしたのは日本航空(JAL)。

JAL のウェブサイトは、昨年、ビジュアルを重視したデザインにリニューアルされ、従来に比べ、洗練された印象を与える作りになっています。

<JAL ウェブサイトのトップページ(PC・モバイル)>

ただ、特にPC サイトにおいては、フライトを選択する情報画面の表示が小さい など、システム上の制約などもあるかもしれませんが、フライトの選択~予約に関連する画面に入ると、引き続き、「古さ」を感じさせるデザイン・レイアウトが残っています。

<JAL国際線・国内線のフライト選択画面>

比較のために、航空会社のウェブサイトの中では、高いユーザーエクスペリエンスを提供しているという評価を得ている、キャセイパシフィック航空やシンガポール航空のウェブサイトを見てみましょう。

<キャセイパシフィック・シンガポール航空の場合>

たとえば、キャセイパシフィック航空のウェブサイトでは、出発日と帰国日の 組合せを示し、どの日程なら最安値の運賃で利用できるかを分かりやすく表示 しています。一方、シンガポール航空のウェブサイトでは、スマートフォンや タブレット端末での閲覧を意識し、縦長にスクロールされる画面構成になっていますが、それによって情報の視認性が損なわれないよう、PC で閲覧すると、 選択されているフライトがポップアップで表示された状態で、画面下部にスク ロールできるようにしているといった工夫も見られます。

一方、JALのウェブサイトも、モバイル端末での閲覧に対しては、適度に最適 化されており、今回調査対象とした航空会社8社においては、全体的にモバイル対応が遅れていた航空会社が多かったという事情もありますが、ジェットスター同様、相対的に高い評価を獲得する一因となりました。

また、JALでは、モバイルアプリもリニューアルされており、羽田空港の国内線ターミナルでは、保安検査場の空いているレーンを確認したり、飛行中に富 士山がどちらの方向に見えるかといった機能が搭載されたりと、空港でのチェックインから飛行中まで、旅行全体を通じて、「JALを選んで良かった」と思わせるようなユーザーエクスペリエンスを提供しようという姿勢が見て取れます。

<新装されたJAL のモバイルアプリ>

ただ、モバイルアプリで紹介されている機能の中には、クリックするとスマホ サイトのページに誘導されるものも含まれていたり、また、複数の「公式」ア プリが乱立していて、Apple Watch と連携して搭乗時刻の通知を受け取るには 別のアプリのインストールが必要だったりという分かりにくさもあります。

今後、モバイルサイト+複数の「公式」アプリを使って、利用者にどのようなユーザーエクスペリエンスを提供するのかという点についは、今後、整理・統合が必要になるかもしれません。


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2016.02.04 | UX
前回のブログでは、サービスデザイン・ジャパン・カンファレンス2016に登壇したAdaptive Path 社Jamie Hegeman 氏の基調講演の概要をご紹介しました。 Hegeman 氏は、社外のデザインエージェンシーという立場で、クライアントの サービスデザインをサポートしているのに対し、続いて登壇したKatrine Rau氏は、GE の工業用・産業用製品部門で、IoT 関連サービスを企画・設計すると いう立場から、サービスデザインという考え方を、社内で具現化し、定着させていくためのプロセスやチャレンジについて話をしました。

<GE でサービスデザインを担当するKatrine Rau 氏>

立場の違いこそあれ、Rau 氏も、GE に所属する様々なステークホルダーを相手に、サービスデザインの重要性を説き、必要なプロセスを実施・定着させてい くためには、「非デザイナー」である彼らをいかに巻き込むかが大切であると強調しました。

その上でRau 氏は、自身の経験から、サービスデザインを成功に導くために必 要なポイントを5 ヶ条にまとめて紹介をしました。

<サービスデザインを成功させるための5 ヶ条>
(Slideshare 公開資料より引用)


1. 現場で培われてきた文化や流儀を否定しない
2. 利用者・提供者双方の立場に立って考える
3. 人々が抱える問題を解決するのがデザインの役割
4. 常に「新参者」の視点を忘れない
5. 欲張らずにできるところから始める


詳しくは、Rau 氏のプレゼン資料がSlideshareに公開されていますので、そちらもぜひお読み下さい。
ユーザーエクスペリエンス(UX)が、エンドユーザーのエクスペリエンスに重点を置いているのに対し、利用者・提供者双方を満足させるエクスペリエンス の提供が求められるサービスデザインにおいては、”Co-Creation”のプロセス、つまり、「非デザイナーである、ステークホルダー達も、サービスデザインのプ ロセスに参加できるよう後押しをすること」が非常に大切であるとRau 氏は強調します。

ちなみに、Hegeman 氏は、”Embed”という言葉を使っていましたが、サービスデザインにおいて、「非デザイナー」であるステークホルダーをいかに巻き込む かが大切、という点では、二人とも、同じことを繰り返し強調していたのが大変印象的でした。

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2016.01.28 | UX
1月23日に慶應義塾大学・日吉キャンパスで、サービスデザイン・ジャパン・カンファレンス 2016というイベントが開催されました。

<Service Design Japan Conference 2016>

このイベントを主催している
サービスデザインネットワーク(SDN)という団体は、サービスデザインに関わるプロフェッショナルや研究者たちが集まるグローバルな組織で、日本においても2013年から、サービスデザイン・ジャパン・カンファレンスというイベントを開催しています。

冒頭の基調講演に登壇したのは、SDN本部の代表メンバーでもある、米国のサービスデザイン・エージェンシー Adaptive Path社のJamie Hegeman氏。

<Adaptive Path社のJamie Hegeman氏>

Hegeman氏は、サービスデザインの検討・設計にあたり、『利用者のエクスペリエンス(いわゆるカスタマーエクスペリエンス)』だけを考えるのでは不充分だと指摘します。

サービスが利用・提供されるためには、『利用者』に加えて、サービスを提供する側の『現場のスタッフ』さらには『経営層』の存在も不可欠であり、これら3つのステークホルダーが、全て満足するようなエクスペリエンスを提供できるかどうかが、サービスデザインを考える上で、大変重要だとHegeman氏は強調します。

一方で、これらのステークホルダーは、通常、エクスペリエンスデザイン(XD)の専門家ではないため、サービスデザインの現場では、常に、「デザイナー」と「非デザイナー」との間に生ずる様々なギャップや軋轢をどう解消するかが大きな課題となります。

このため、デザイナー側には、非デザイナーであるステークホルダーに対して、何かを「伝える」「教える」という姿勢よりも、かれらを「巻き込む」ための工夫が求められます。(Hegeman氏は、これを”Embed”という言葉で表現していました。)

その際に重要となるのは、「デザイナー」と「非デザイナー」がスムーズに会話できるための共通の言語を持つことです。

そこで役に立つのが”Experience Map” や”Blueprint”といったツールです。こうしたツールを使うことで、サービスの利用にまつわる利用者・提供者側の体験を、言葉や概念だけでなく、ビジュアルなイメージとしても共有できるようになるので、サービスデザインの専門家ではないステークホルダーの人たちも、積極的に議論に参加することができるようになります。

ルグランでも、ウェブサイトの制作・リニューアルや、モバイルアプリの開発にあたっては、”Experience Map”などのツールを使い、まずは、クライアントや利用者の方々と一緒に、利用者・提供者それぞれの立場からみたエクスペリエンスを、1つのストーリーとして視覚化していくというプロセスを大切にしています。

サービスの利用者や提供者が、どこで不満やストレスを感じているかが見えてくると、ウェブサイトやモバイルアプリのエクスペリエンスをどのようにデザインするべきかが、おのずと見えてきます。クライアントに対してエクスペリエンスデザインを支援するという、同じ立場で仕事をする今回のHegeman氏の講演は、多くの示唆に富むものでした。

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