本ブログでは、様々な切り口からUXについて考察した記事・コラムを掲載してきましたが、2016年最後となる今回は、今後、UXデザインは、どういう方向性に向かうのかについて考えてみたいと思います。
“ウェブサイトやモバイルアプリをデザイン・設計する上で、もはやUX(ユーザーエクスペリエンス)を抜きに考えることはできない”
日本においても、こうした考え方が徐々に広まる中、今年は、ウェブやアプリ、あるいはサービスそのもののデザインをUX視点で考えたい、というご相談をたくさん頂戴した1年となりました。
ユーザビリティからインタラクションのデザインへ
「レスポンシブデザイン」とか「モバイルファースト」といった言葉が使われるようになって久しいですが、いまや、スマートフォンは「携帯版のブラウザ」という役割を大きく超え、日常生活に必要な「タスク」を実行するために不可欠なツールとなっています。
たとえばアメリカの、特に都市部では「Lyft」や「Uber」といった配車サービスが当たり前のように使われていますし、日本でも日本交通をはじめ、多くのタクシー会社が配車アプリを提供しています。
<Lyftのウェブサイトより>
テーマパークや空港といったリアル空間におけるUXにも、モバイルサイトやアプリの果たす役割は大きくなっています。
更には、Apple Watchのようなスマートウォッチや、AmazonのEchoなどの音声認識端末を使って、飛行機に乗ったり、部屋の電気を点けたりすることもできるようになっています。
<Apple Watch – Apple社ウェブサイトより>
こうした環境の変化を考えると、もはや、UXは、パソコンやスマートフォンの「画面」上でのユーザビリティ(操作性や使い勝手)だけを考えていれば良い時代は終わりつつあると言えるでしょう。
今後、UXをデザインする上では、私たち人間が、次々に登場する新たな端末・機器、あるいはテクノロジーと、どのように関わりながら、快適に日常生活を送れるのか、というインタラクションデザインが、非常に重要になってくると考えられます。
インタラクションデザインが重要になる3つの理由
UXデザインを考える上で、今後、インタラクションのデザインが重要になると思われる理由は3つあります。
- 新たな機器や端末の登場
- 対話型サービスの普及
- VR技術の進展
以下、それぞれについて、考えてみたいと思います。
- 新たな機器や端末の登場
スマートフォンの画面を指で左右になでる「スワイプ」や、2本の指で画面を拡大・縮小させる「ピンチイン(アウト)」といった操作は、スマートフォンを使う人は、当たり前のように行っていますが、パソコンしか無かった時代には、こうした操作を日常的に行うことは、ほとんどありませんでした。
今後も、どんどん、新しい機能や技術を搭載した機器や端末が生み出されていくでしょうが、そうした機器・端末を使って、ストレスなく、快適にタスクを実行するためには、私たちの普段の行動や意識の中で、直感的にわかりやすく、また身体行動的にも自然な操作をデザインに取り込むことが重要です。
- 対話型サービスの普及
従来のウェブサイトでも、求められた情報を順次入力すれば、必要な操作が完了するといった対話型のインターフェイスは用いられてきましたが、近年では、サイト内に実装されたチャット機能で、実際にサポート担当者と「対話」をしながら、商品やサービスを検討・購入できるサイトも増えています。
また、元々は、知人や友人とのコミュニケーションに使われてきたFacebookメッセンジャーやLINEなどのメッセージアプリの普及を受け、企業が持つアカウントとも、メッセージアプリで「対話」するだけで、すべてのタスクが完了できるサービスも生まれています。
<American EagleのLINEアカウントより>
実際、中国で高いシェアをもつメッセージアプリ”WeChat”は、商品の購入や決済を行うためのプラットフォームとしても広く使われており、商品やサービスの提供者が用意したウェブサイトやアプリに取って変わる存在になりつつあります。
また、音声認識技術の進化により、画面やキーボードに全く触ることなくタスクを実行することも可能になっています。今後、UXデザインを考える上では、どうすれば、チャットや音声入力を効果的に組み入れた利用体験を創造・提供できるのかが重要な課題になっています。
- 空間認識
VR技術の進化や安価な機器の普及により、スマートフォンでも、簡単に立体的な映像や画像を楽しめるようになっています。
たとえば、家を建てる時、これまでは、平面的な設計図や模型から、精一杯、創造力を働かせないと、間取りや広さ、位置関係を実感することはできませんでしたが、VR技術を使ったアプリケーションやサービスの登場で、こうした問題は解決されるようになっています。
とはいえ、ただ単に平面的な情報を3D化すれば、それだけで、よりよいUXが実現できる訳ではありません。今後、UXデザインにVRの要素を取り入れるのであれば、私たち人間の空間認識に影響を与える要素、たとえば、距離感、光や音、さらには身体の動き、といったことへの正しい理解も求められることになります。
集合知としてのUXデザイン
ここまで読んでおわかりの通り、UXデザインとは、単なるビジュアルデザインに留まる話ではありません。
多様化、高度化する技術を効果的に取り込みながら、最良のUXをデザインするためには、たとえば、認知科学や心理学、人間工学など、さまざまな専門知識を持つ人との協業は欠かせません。
また、音声認識や言語解析、あるいは機械学習などの技術に明るい人たちにもチームに加わってもらうことは必要ですし、最終的に、さまざまな情報や機能を、直感的に、分かりやすく、使い易いインターフェイスに落とし込むためのデザイナーの役割は、これまで以上に重要となります。
とはいえ、「UXデザイナー」がこれらの役割の全てを担うことは不可能です。そういう意味で、今後のUXデザインは、様々な分野・領域について、専門的な知識・技術・経験を持つ人たちが、チームを組んで、取り組む課題となっていくでしょう。
一方、UXデザイナーは、そうした人たちを束ね、前回コラムにも書いた通り、利用者や顧客の視点で考えるという文化を、企業や組織に定着させるという、プロジェクトマネジャー、ファシリテーター、あるいはエバンジェリストとしての役割が求められていくでしょう。
2017年、ルグランと一緒に、新たなUXの可能性を考えてみませんか?